不幸を知らない
不問2名語尾、一人称等の変更可・名取・???ー本編ー名取「僕は不幸だ」???「貴方は不幸ではない」名取「僕は何をやっても駄目なんだ」???「貴方は駄目なんかじゃない」名取「僕の事なんか知らないくせに」???「貴方の事は知ってるよ」名取「僕の何を知ってるって?」???「貴方の全てを知ってるよ」名取「僕は僕以上に不幸な人を見た事がない」???「貴方は貴方以上の不幸を知らないだけ」名取「認めたな。僕が不幸だって事を」???「いいえ、あなたは不幸じゃない」名取「学生時代の話をしよう」???「聴かせてちょうだい」名取「僕には好きな人がいたんだ」???「素敵な事だね」名取「…彼女とは両想いだったが、付き合わなかった」???「どうして?」名取「いや、正確には付き合えなかったんだ」???「…」名取「僕は彼女の事が好きなのを親友に相談していた」???「なんでも相談出来る親友がいるのは素敵だわ」名取「素敵なものか。彼女も僕の事をその親友に相談していた」???「両想いだったのね」名取「ああ、そうだ。両想いだった。両想いだったんだ。だけど彼女は相談に乗ってくれる親友の事がいつしか好きになってしまった。僕よりも。」???「そう…」名取「そして、僕が告白するよりも先に二人は付き合った」???「貴方は辛かったでしょう」名取「ああ、好きな人だけでなく、親友まで失った!」???「なぜ?」名取「なぜって?応援してるといいながら僕から彼女を奪ったんだ。親友だと思ってた」???「違うわ。貴方にはこれからもっと素敵な人が現れる。彼女とはたまたま縁が無かっただけ。それに、あなたの親友は幸せになれた。それって素敵な事よ」名取「綺麗事だ。その幸せは僕のものだったかもしれないのに喜べるわけないだろう」???「だけど、あなたが恋を諦めてなければこの先きっとまた素敵な人に逢える」名取「…それだけじゃない」???「なぁに?」名取「大学受験だってそうだ」???「何があったの?」名取「僕は幸い勉強は出来る方だった。狙っていた大学だって余裕で合格ラインを超えていた」???「凄い事だわ」名取「だけど試験当日に今までに感じた事の無い痛みを腹に感じた」???「大変…」名取「僕は試験中、急性虫垂炎つまり盲腸になった」???「それは苦しかったでしょう」名取「おかげで試験に集中出来ず、落第」???「集中できていたら余裕の試験だったでしょうに」名取「後日、訳を話し、再試験を嘆願したが却下された。今まで風邪すら滅多に引かなかったのに」???「でも、次受ける時は必ず受かるわ。試験の下見が出来たと思えば」名取「下見なんかしなくても合格出来たんだ!親にはその事で見放されるし」???「そんな事ない。お母さんは貴方を大事に思ってる」名取「出来損ないの息子を大事に思う親がいるかい?」???「親はどんな子供でも大切なのよ」名取「さっきから綺麗事ばかりだ」???「そうね、でもそうであって欲しいの」名取「僕は不幸だ」???「貴方は不幸ではない」名取「なぜ?」???「だって…あなたはまだ生きている」名取「もう死んだって構わない」???「それはいけない。あなたにはまだ長い人生が残っている」名取「こんな不幸な人生を生きていくのはもう疲れたんだ」???「それでもあなたは生きている」名取「僕は死にたかった」???「でも、死ねなかった」名取「死ぬ事すら叶わない僕は不幸だ」???「…私は生きたかった」名取「…なんだって?」???「私も生を受けて、恋をしたり、勉強をしてみたかった」名取「…」???「苦しみだって痛みだって羨ましい」名取「苦しみや痛みが羨ましい?」???「何が起こるか分からない未来がある事が羨ましい。明日が来るのが羨ましい」名取「誰だって、何もしなくたって明日はくる」???「生きていれば、ね」名取「君は」???「浴室で手首から血を流している貴方を見てお母さんは泣きながら必死に病院に運んだわ」名取「母さんが…」???「小さい頃を覚えてる?まだ赤ん坊の貴方が高熱を出した時、お母さん夜中に病院に行って泣きながらお医者さまにお願いしてた。息子を助けて下さいって。あの時と全く同じだった」名取「…」???「愛されてる。愛されてるの私達」名取「僕、たち…?」???「本当の不幸はね、不幸すら感じない事よ」名取「不幸すら…」???「そろそろ戻りなさい。沢山色んな事を経験していつかまた、ここで話しましょう。その時は幸せな話が聴けるといいな」名取「待って!君は…」???「あなたの命に私もいる。私の分までしっかり生きて幸せになって。私も貴方を心から愛してる」病院で横たわる名取がうっすら目を開く静かに頬を涙が伝う。病室には無機質な心電図の音が響く、目を真っ赤に腫らした母がベットの側で祈るように名取の手を握っていた。ピッピッピッ…名取「僕は…まだ、生きてる…」名取「よかった…生きててよかった…」fin