鉄道事故史                    ―常磐線土浦駅 列車三重衝突事故―

  


  

 時をさかのぼること今から70年前の昭和18年10月26日、18時40分
 常磐線土浦駅で列車が三重衝突する最悪の事故が起きた。
 鉄道事故といえば2005年に起きたJR福知山線の脱線事故が記憶に新しいが、それに匹敵する最悪の事故がJR土浦駅でも起きていた。死者116名、負傷107名。
 しかし、土浦の脱線事故当時は戦時中という事もあり大きくは取り上げられる事はなかった・・・。






 今から43年前の昭和18年、常磐線土浦駅で列車が三重衝突をする事故が発生し死者116名を出す大惨事となりました。(土浦市史は死者96名と記載)

 鉄道事故史上最悪の事故ですが、今日ではこの事故を知る人はほとんどいません。皆さんは知っていましたか??この事故は以前から気になっていたので事故について詳しく調べてみる事にしました。

 まず、この事故はどのようにして発生したのでしょうか。『国鉄重大事故史』に次のように記しています。

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 貨第二九四列車(第294貨物列車)、当駅上り一番線に到着後、入換のために貨車41両を持って入替線に引上げたところ、前途の転轍機が異方向であったために異線に進入し、上り本線より分岐して居る転轍機を割出して支障していたところ、貨第254列車が、場内信号機の進行現時によって進行して来たので、これに衝突し、牽引機は貨車に喰込み、その直後の貨車は14両も脱線転覆し、上下本線を支障していた時、下りの客第241列車も進入して来て、第254列車の牽引機に接触したため、これも脱線転覆し、客車2両は脱線の上、傾斜、3両目は桜川の橋梁上より脱線傾斜し、4両目は桜川に転落、水中深く没してしまった。このため上下本線は支障され、多数の死傷者を出してしまった。
    

 
 聞きなれない言葉がいくつもでてきましたが、 簡単に解説すると転轍機【てんてつき】とは、いわゆる『分岐器』又は『ポイント』と呼ばれているものです(正確には分岐器を操作するスイッチの事らしいが)。鉄道模型やプラレールで遊んだ人ならすぐわかりますね。電車の方向を変えるYの字のやつです。 
 定位とは列車を本線側に進入させるように通常の位置になっている事で、反位とはその逆で副線に進入するような位置になっている事です。本来進むべき進路とは違う異なった方向、『異方向』に進入してしまったという事になります。 




 ところで、上の文に「割出して...」とありますが割出しとはどういう事なのでしょうか?? 割り出しという現象を下に解説します。 ↓↓


   割出しとは??



下の画像をご覧ください。次のようなポイントがあったとします。


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 B⇒Cで線路が開通している状態で、A方向からC方向に向かって列車が来たとします。するとどうなるでしょうか?
 するとA方向から来た列車の車輪は閉じているレールを無理やり割って入ってしまい、車輪がレールとレールの間に挟まってしまいます。そうなると転轍機を破壊したり誤進入、最悪の場合は脱線転覆をしてしまう危険があります。これが割り出しといわれる現象です。


↓↓↓  (B⇔C間で開通している状態で、A方向からCに向かって列車が来たしまった場合。)
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 以下の図をご覧ください。貨物列車294はこの図のように入換線に向かうはずだった。この時、転轍12号ポイントが正しければ「定位」の位置になっているはずである。そして、転轍13号ポイントは間もなく到達する上り列車254貨物列車の通過に備えて「定位」の位置である。

これが本来の正しい転轍ポイント。こうなるはずだった。↓↓

<図の1>
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 しかし、12号ポイントが異方向(反位)になっていたため、入換線の方向へ向くはずのポイントが本線の方へ向いていた。これにより上り本線側に誤進入。
 更に運が悪い事に、その先にある13号ポイントが次の列車通過に備えて「定位」になっていたため、上の図で説明した「割出し」が発生、レールを割り出した貨物列車294はその場で停車、上り本線上で身動きが取れず立ち往生してしまう。



<図の2>
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例:以下の写真は直進方向に向いている場合↓↓
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ここまではよろしいでしょうか??







――――――事故の発生概要―――――     






では次は、事故発生に至るまでを順を追って見てみよう。





昭和18年10月26日。
 
その日は雨がぱらついて辺りは既に暗くなっていた。

18時40分、第294貨物が土浦駅の上り裏一番線に到着。

貨物車両を牽引していた機関車は牽引していた貨物41両を切り離し、転轍12号ポイントと13号ポイントを通過し一旦上り本線に入ってから、バックして給炭・給水地区へと向かった。


(図1)
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 294貨物を牽引してきた機関車が機関区に入り補給をしている間に、別に新たな構内の入換用機関車(八八型機機関車)が294貨物を連結し、入換作業を開始すべく入換線へと向かおうとしたが・・・

 間もなく上り本線を254貨物列車が通過してくる。13号ポイントを定位の位置に戻し254貨物列車の通過に備えた。ところが12号ポイントは定位の位置に戻し忘れ、反位(異方向)のままに。

(図2)
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 入換線に向かおうとした第294貨物列車は、入換線ではなく上り本線へと誤進入してしまい、しかも最悪な事に13号ポイントが定位だったので294貨物はレールを割り出してしまいその場で停車。立ち往生してしまった。294貨物を牽引していた八八型機関車は13号ポイントを割出し、第三動輪まで本線に入ったところで動けなくなってしまったのだ。ここでポイントミスによる誤進入という第一の事故の発生である。図2を参照

 ちなみに、13号ポイントのすぐ目前には南部信号所がある。南部信号所は閉塞信号係、見張信号係、梃子信号掛の3名が常駐して勤務に当たっている。信号所は2階にあり、構内全体を見渡せる位置にあり、機関士は汽笛を鳴らして異常の発生を知らせたそうだが、3人の信号掛は目前の事故に気が付かなかったのか何らの処置をとらなかったそうだ。
 なぜ気が付かなかったのか?信号所の3人は八八型機関車がポイントを割出した時、ちゃんとこれを見ていたのか?記録では、3人は談笑していたと記されているという。 
 一方、八八型機関車を運転していた運転掛は目前にある南部信号所ではなく北部信号所へと走る。なぜ南部信号所ではなく、500mも離れた北部信号所方面へ駆けていったのか。500mの距離を走って通報しようとするのは無謀に近い試みである

(図3)
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 第294貨物列車が立ち往生しているうちに、今度は上り本線を254貨物列車(D51機関車牽引)が土浦駅を進行してきた。しかも最高速に近い時速約45kmの猛スピードで迫ってくる。
 (なぜ全速力なのかというと地形的な問題によるもので、桜川鉄橋を渡りきると相当な急勾配にさしかかる。このため重量のある貨物列車だと速度をゆるめたりすると坂を上りきれなくなってしまうので、土浦駅を通過する際は、速力をつけるため大量の石炭を釜の中へ投入し、最高速度に近い時速45kmで駅構内を通過する必要があるという。)

 

 第1の事故から3分30秒後、ついに第2の事故が発生した。

 本線上で支障していた294貨物列車は、後方から進行してきた254貨物列車と衝突 。


(図4)
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 254貨物列車は上り本線上に停止している294貨物の牽引機関車に衝突。その衝撃により254機関車(D51)とその貨物車両は脱線しながら13号ポイントの部分から桜川鉄橋わずか数メートル手前まで暴走し、下り本線上に貨車14両とともに脱線転覆。294貨物を牽引していた八八型機関車は衝突の衝撃で桜川鉄橋近くまで暴走し、入換線上で脱線転覆。続く14両の貨車は上下線にまたがってバラバラに散ばった。

(図5)
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 更に最悪な事に、今度は第3の事故が発生する。

 その2分30秒後。

 今度は下り本線を多数の乗客を乗せた旅客第241列車が進行してきたのだ。

 旅客第241列車は、254貨物のD51機関車と衝突し転覆。第3の事故は桜川鉄橋上で発生したことが災いして、死傷者を更に増大させてしまった。

 旅客241列車の1両目は牽引機関車に乗り上げ、2両目は1両目と3両目に押しつぶされる形で原型をとどめずぺしゃんに横転。3両目は鉄橋から落ちかかりぶら下がったような状態、4両目は鉄橋上から転落し完全に桜川の河中へと水没。4両目の多くの乗客はこの桜川で水死。

 5両目はわずかに桜川鉄橋にかかったところで停車し、なんら損傷を受けずに室内灯も普通に点灯している。5両目の乗客は幸いにも事故を免れる事ができた。


(図6)
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 こうして未曾有の大惨事、常磐線列車三重衝突事故は発生してしまいました。








事故現場となった現在の桜川鉄橋 ↓↓
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次回へ続く⇒⇒⇒