「おはようさん」
入るなり声が聞こえてくる。この店の主だ。
主はそう言うと店の奥に入って行き「おーい」と呼んだ。
店内を見渡してみるとアンティーク調で統一されていて、テーブルは一本の樹を主自ら削り出したものだ。
小さなシャンデリアが天井からいくつかぶら下がり、温かみのある黄色を部屋に振りかける。
僕はテーブル席で新聞を広げるサラリーマンを横目に歩く。
(少しキテるな…)
そしてカウンターの左端から二番目のいすに座る。
窓から外が見えるこの席が僕の特等席である。
特に何が見える訳でもない。
ただ外が見えるだけでいいのだ。
しかし最近はほとんど見えなくなっている。
少し前から主がどこから手に入れたかツタを育てはじめ、それを店の壁に絡めだしたのだ。
主曰く、老舗の喫茶店にはツタが付き物らしい。
全く、どこで覚えてきたんだか。
今では3つある赤窓の1つを飲み込んでしまい、覆い尽くさんとばかりに2つ目に手を掛けている。
そう、
奴が食ったのは僕の窓なのだ。
「おはよ。」
そう言って奥から出てきたのは一人の女の子。
「おう」
軽く挨拶を返す。
髪を束ねながらカウンターまで来ると
「何にするん?」
「いつもの。」
「いつものって何よ。」
「決まってるやろ。トーストコーヒーライス大盛り。」
「変な組み合わせ。」
「変で結構。」
くだらない、いつものやり取り。
そして朝が来る。
つづく。