消防に関係するドラマの多くは、放火事件を扱ったものです。
ミステリー系のドラマでは、
誰が放火したのか、
どのように放火したのかを
主人公が謎解きをしていくというパターンが主流になってきます。
その代表的なものが、テレビ朝日系で放送された『火災調査官・紅蓮次郎』シリーズでしょう。

2時間ドラマの帝王という異名を持つ船越英一郎さんが、出火原因を究明する火災調査官役となり、様々な事件を解決していくミステリードラマです。
このシリーズは全部で15話あり、そのすべてに消防監修という役割で参加しました。
監修という仕事は、ドラマをリアルにするために、専門的な見地から助言を行うものですが、
このシリーズでは、放火のトリックに使うアイデアを提供することも仕事の一つになりました。
言い換えれば、「放火の仕方を教える」ということですから、
消防関係者としては、実に悩ましい行為になります。
真似をされたらどうしよう――そんな心配もありました。
そこで、いくつか「工夫」を施したのです。
まず1点目。
成功確率が極めて低いものを選んだのです。
現実の放火犯は、メカニズムが単純であり、確実に出火する方法を選択することがほとんどです。
これをそのままドラマで再現しても面白味が欠けるということもあり、
敢えてメカニズムを複雑にしました。
そうすることで、失敗確率も飛躍的に増えるわけです。
次に、出火が成立する条件にウソをつきました。
「ウソをつく」とは、映像業界でよく使う言葉ですが、
実際には起こらないことを承知していながら、平然と映像にすることです。
私の場合、温度条件や物質名称などの一部を偽ったわけです。
例えば、熱湯でないと反応しないにもかかわらず、水を使ったりなど。
真似をしても失敗してしまうようにと、計算したのでした。
さらに工夫した点として、
失火を偽装するパターンを採用したことです。
「こんなことで出火してしまうんだ」と視聴者への注意喚起を意図したものでした。
漠然と火災に気を付けるよりも、
出火のメカニズムを理解し、具体的に注意を払う方が、
火災予防に効果的だと思ったからです。
消防関係ドラマをつくるなら少しでも火災予防につながれば、という願いを込めたのでした。
もちろん、前述のような出火条件にウソをついたのは言うまでもありません。
ただ、最近はネットで容易に出火メカニズムの知識を検索できることもあり、
真似をされる危険性が飛躍的に高まってしまいました。
情報の提供の仕方に一層の配慮が求められる時代になってしまったのです。
現実と理想の狭間で、監修者は常に悩み続けているのです。







