ドラマに登場する消防隊員をリアルなものにするために、監修は様々なアドバイスをします。
そんな仕事をやりながら悩ましく思うのが、セリフに使われる専門用語。
切迫した災害現場では、正式名称よりも略語やイニシャルを使うことがほとんどです。
だからといって、あまりに略語だらけだと視聴者が理解できないことだってあります。
その辺のさじ加減に自信が持てなかったのですが……。
そんな中、ある山岳救助ドラマの撮影現場で、医療監修を担当する医師と知り合いになりました。
彼は、「ありのままでいいんですよ。言葉が分からなくても雰囲気で伝わるはずですから」と、かなり割り切った様子。
なるほど。一部にとらわれず、全体を見る目が必要なんだなと、納得したのでした。
撮影も順調に進み、いよいよラストシーンとなりました。
救出した負傷者がヘリコプターで搬送されるのを見送りながら、救助隊長は協力者に礼を言って引き揚げようとするシーンです。
特に専門的な動きやセリフもなかったので、やや緊張感が欠けた気分でリハーサルを見ていた私は、隊長役の俳優さんにふと違和感を覚えたのでした。
しかし、どこをどのように修正すべきかうまく指摘できません。
もどかしくしているうちに、監督が「喜び過ぎじゃないか」とおっしゃったんです。
そう、そうなんです。隊長は、ほっとした表情を浮かべていたのです。
しかし、まだ負傷者は病院に着いていません。助かるかどうかは五分五分といったところ。
それに、ここは標高が高い山岳という設定。救助隊だって帰る途中で事故が起こらないとも限りません。
まだまだ気が抜けないんです。
私は俳優さんに、そうした背景を説明しました。しかし、急だったこともあり、どのような演技をしたらよいのか当人は迷っている様子です。
日没も迫り、考えている余裕はありませんでした。直ちに本番開始です。
私は本人以上にドキドキ。
カメラが回り演技スタート。
「お世話になりました」と隊長は協力者に礼を言います。
そのとき僅かに笑みがこぼれました。ほんの一瞬だけ。協力者だけに伝えようとしたささやかな笑み。
その直後、厳しい表情に変わり「引き揚げるぞ」と隊員に声を掛けます。
自らを律するように隊長の口は真一文字になり、一歩を踏み出します。
救助隊長の複雑な心理を見事に表現した演技でした。
もちろん監督もOKです。
無事クランクアップ。
マイカーに乗り込みながら、自宅に戻るまで気を緩めるなと言い聞かせます。
そして何よりも、撮影の途中で緊張感をなくした自分自身を戒めたのでした。





