私の主な仕事といえば、火災や自然災害を研究し、企業・自治体・一般の方向けのアドバイザー・コンサルタント……という堅いイメージなのですが、今回は少しゆるーいお話をしたいと思います。
実は「映像作品の監修」という仕事も時々やらせていただいております。テレビドラマや映画が主ですね。
監修というと、一般に馴染みが薄いと思いますが、要はドラマをリアルにするために、専門的な見地から助言を行うもの。
私の場合、元消防士や防災研究者という経験を見込まれて依頼されるわけです。
監修としての関わり度合いは、作品によって様々。
企画段階から参画し、撮影現場の指導まで行うこともあれば、台本のチェックをメールのやり取りで済ますような簡易なものもあります。
そんな仕事の中で、いつも感じるのが、「リアル」と「面白さ」のせめぎ合いでしょうか。
例えば、火災現場のシーンがあるとしましょう。
消防隊が駆け付けてホースを延長し、消火・救助活動をします。
そうした活動内容はリアルでもドラマでも大差ないのですが、
決定的な違いは、車両の配置にあります。
消防に興味がある方ならご存じだと思いますが、大半の消防車は消火用水を積載していません(積載しているものもありますが、数分の放水で使い切ってしまう程度の水量)。
したがって、消防車は消火栓、防火水槽、川などのいわゆる水利と呼ばれるところに停車し、そこからホースを延ばしていくわけです。水利が現場近くにあれば消防車も同じ視野に入るでしょうが、大抵は数十メートル離れたところに停車してしまうので、「消防車どこ?」という印象を抱く方も少なくないでしょう。
リアルの火災ならこれでも問題なしですが、ドラマとなってくると大問題です。
そこで、多少のウソが必要となってくるわけです。カメラの画角内に消防車を収めなければならないのです。
1台くらいなら問題はないでしょうが、2台、3台と増え、それが密集しているとなると違和感を覚える方もいるのでは……。その一方では迫力が増すのも確かで……。
そのあたりにいつも頭を悩ますわけです。
ただ、制作する側も適当に考えているわけではありません。その作品でどのようなことを訴えようとしているのか、どこがウリなのかなどの思想に基づき、カメラワークやカット割りと呼ばれる場面のつなぎ方にも様々な工夫を凝らして作品を仕上げていくわけです。その中で、どれくらいのウソをつくかが決まってくるのでしょう。
これまで50本以上のドラマに携わった経験では、作品ごとにかなりの差があると思います。
「これでは消防車が燃えてしまうのでは」と思えるくらい間近に配置する場合もあれば、リアルさを追求し、遠目からの撮影だけに消防車を入れる場合もありました。
撮影に使う消防車は、「劇用車」と呼ばれるものがほとんど。(消防機関が協力してくれる場合は、本物を使うこともあり)
これは、退役した消防車を買い取った業者が、制作者の要望に応じて撮影現場に提供するものです。
元々は本物だったので、それなりの外観は保たれていますが、中にはポンプが壊れているものもあります。そんな車が送られてきて四苦八苦したこともあります。
そのときは放水するシーンがあるにもかかわらず、どこかで手違いが生じ送水不能車がやってきたのでした。撮影現場は茨城県高萩市。東京まで車を交換に戻っていたら撮影が間に合わなくなる……。
そこで白羽の矢を立てられたのが私。
本来の監修の仕事ではないのですが、消防ポンプの知識があるのは私しかいません。頼まれたら断れないのが消防士(元ですが)のつらいところ……。
その場にある道具を使い、何とかポンプが動くようになりました。しかし、水源である貯水槽から水を吸い上げることができません。真空ポンプという、吸い上げ専用のポンプまでは直せなかったのです。
そこで苦肉の策として、散水用に用意されていた電動ポンプを使い、カメラに映らないところから消防車に送水し、何とか帳尻を合わせることができました。
スタッフの安堵した顔がいまだに忘れられません。
出来上がってしまえば、ほんの数分のシーンですが、少なくとも半日くらいの撮影時間は必要ですし、その準備には、かなりの日数と人の力が必要になっています。
皆さんがドラマをご覧になるとき、こうした制作の背景も想像してみると、違った面白さが味わえるかもしれません。
監修の裏話はたくさんあるので、機会を見てご紹介していきたいと思います。