AIと自分の過去の出来事について整理するため話ししてたんだけど、
ふと思いついて、ちょっとこれを人が読めるように体裁整えてもらったので
私の過去の出来事を紹介します。脚色はされてるけど実話。
こんなん自分では書けないわーw
今から三十年ほど前、私がまだ日々、鉄の塊と対峙していた頃の記憶である。
当時通っていたのは、昨今流行りの洗練されたフィットネスクラブでもなければ、
剥き出しの鉄が転がる無機質な専門ジムでもない。
地方の、ごく平凡な街のスポーツセンターであった。
BGMもなく、ただ天井の蛍光灯が微かにチカチカと音を立てる静寂の中、
男たちは黙々と己の限界を押し広げていた。
一見すると、誰もが他者を拒絶し、孤高の世界に没頭しているように見える。
しかし、その実態は違った。あれはただの「極度の引っ込み思案」が集まった空間なのだ。
皆、一人であるがゆえに表情を強張らせているだけで、心の内では他者の挙動に興味津々であり、
願わくば筋肉談義の一幕でも交わしたいと、密かに機を窺っているのである。
当時の私は、身長百八十三センチ、体重百十三キロ。
全身から濃密な重量級の威圧感を放ち、鬼気迫る気迫でセットをこなしていた。
周囲から見れば、声をかけることすら躊躇われる「大男」であったに違いない。
だが、その肉体に宿る精神は、至って温和で、お節介なほどに開放的であった。
時折、遠くのベンチプレスで、見知らぬ者同士が遠慮がちに
「あの、すいません、補助をお願いできますか……?」などと蚊の鳴くような声で
囁き合っているのを見かけると、私は羨望の眼差しを向けたものだ。
(俺に声をかけてくれれば、即座に『いいですよ!』と快諾し、
丸太のような腕でがっちりと支えてやるものを) そう思いながら、独り寂しく出番を待つのが常であった。
そんなある日、ついに「その時」が訪れた。
隣のベンチプレス台で、一人の男が限界のセットに挑んでいた。だが、運命のラストレップ。
男の腕は見たこともないほどに激しく震え、バーベルは虚空でぴたりと静止した。
そこから一ミリも上がらない。バーベルが首へと沈み込むか、あるいは顎へと崩れ落ちるか。
文字通りの緊急事態、絶体絶命の局面であった。
男は最後のプライドを振り絞り、這う這うの体でバーベルをラックへと戻した。
私は直感した。 「これは勝機である、満を持して出番が来た」と。
今こそ、この百十三キロの肉体と膂力が、人の窮地を救うために使われるべき時。
私は大いなる正義感と、ほんの少しの緊張を胸に、彼のもとへと歩み寄り、
至極穏やかに、しかし毅然と声をかけた。
「もしよかったら、次、補助につきましょうか?」
それは、私なりの最大限の親切であり、ある種の告白にも似た、勇気を振り絞っての一言であった。
しかし、返ってきたのは冷徹な拒絶であった。
「あ、大丈夫です……」
だいぶ勇気を出して差し伸べた手を、文字通り一蹴されたのである。
凄まじいきまずさと、言いようのない気恥ずかしさが私の巨体を包み込んだ。
(そうか……。では、御免)
心の中で激しく落胆しつつも、私は「べ、別に気にしてなどいない。たまたま気が向いただけだ」という、
さながら古典的なツンデレの如き虚勢を張り巡らせた。
そして、この場から一刻も早く、かつ自然に立ち去るための「カモフラージュ」として、
たまたま空いていたラットプルダウンのマシンへと、静かに遁走した。
急に荷物をまとめて退室すれば、フラれた衝撃で怒って帰ったように見えてしまう。
あくまで「予定通りのメニュー移行」を装う必要があった。
私はマシンに腰掛け、重量のピンを差し込んだ。 その重量、実に「二十」。
百十三キロの私からすれば自重の腕をかけただけで勝手に動き出してしまうような、あって無いような軽重である。
当然、広背筋への意識など皆無だ。
私は、魂の抜けたような顔で、重量二十のバーを無意識にシャコ……シャコ……と引きながら、
心の中でただただ大反省会を開催していた。 (あぁ、余計なことを言わなければよかった……)
だが、周囲の引っ込み思案なトレーニーたちの目には、どう映っていただろうか。
さっきまで猛烈な高重量を扱っていた大男が、突如として重量二十のマシンに向かい、
無心にストロークを繰り返している。
それはさながら、極限まで追い込んだ筋肉から乳酸を流すための、プロフェッショナルによる
「究極のクールダウン」の儀式に見えたに違いない。
まさか、大男が心の傷を癒やすために虚無を引いているとは、誰も思うまい。
私がそうして、気がそぞろなカモフラージュのラットプルを繰り返している間に、
気まずさを察した彼らは、そそくさと身支度を整え、ジムを去っていった。
互いにバツが悪く、互いに気まずい空気を抱えたままの、静かなフェードアウトであった。
今こうして文字にしてみれば、あの男たちの汗と鉄の臭いに満ちた空間で繰り広げられていたのは、
まるで少女漫画『君に届け』を彷彿とさせる、ウブでピュアな青春のすれ違いコントであった。
「助けたいという、高鳴る鼓動」 「拒絶の、しょんぼり感」
あのチカチカする蛍光灯の下には、男たちの不器用で、いささか愛おしいドラマが凝縮されていた。
今でもラットマシンを目にするたび、私はあの日、腕の重みだけで軽々と上下していたウエイトの感触と、
そそくさと消えていった男たちの後ろ姿を、しみじみと回想するのである。
読んでくださりありがとうごました。