バレンタインとかいう平日である。
都市伝説によると一部の地方では、バレンタインデーに女子が男子にチョコレートを献上するという謎の風習があるらしい。一体何の宗教儀式だろうか。まあ俺には縁がないし興味もないしどうでもいいことなのだが。
そんな非モテ独り身の俺の部屋には、いわゆる脳内彼女はいない。俺もそこまで痛い子ではない。その代わりと言ってはナンだが、俺の家には脳内ディフェンダーがいる。
学生時代の体育、運動音痴の俺だが比較的サッカーは得意であった。プレースタイルはドリブラー、3人4人くらいなら普通に抜いていた。それはテクニックに長けていたからではない、足が速かったからだ。
俺の50m走のタイムは6秒8と至って平凡である。しかしサッカーにおいて50mを独走する機会などそうそうない。むしろ要するのは3mダッシュである。そして俺はこの3mが人より速かったのだ。
しかし俺ももういい歳だ。仮に今サッカーをやったら、スピードのアドバンテージは皆無といって良いだろう。家でしばしば妄想する。「速さを失った俺は一体どうやって相手ディフェンダーを抜けばいいのだろうか」。
従って例えばベッドからトイレまでの数メートル、俺は脳内ディフェンダーを相手に脳内ドリブルをする。「こう、こう、こうやって相手を抜くんじゃぁああ!」
久しく運動をしていない。数年ぶりにまた、友人とスポッチャでフットサルをしてみたい気もする。もっとも今ピッチに立てば、スピードよりもむしろスタミナ面で醜態をさらしそうだが。