これは俺がこの夏に実際に体験した話である。特に一人暮らしの人にはトラウマになり兼ねないレベルの恐怖談なので、ホラーが苦手な方は閲読をお控えいただきたい。
俺はそれを「カサ子さん」と呼んでいた。毎年毎年夏のこと、深夜になるとどこからともなくカサカサ、カサカサ、何物かが蠢いているかのような音が聞こえてくるような気にかられるのだ。しかし電気をつけてもそこには何もいない。疲労か幻聴か、それとも霊的な何かなのか。様々な線を疑ったがどれもあまりにも荒唐無稽、俺は「カサ子」さんの正体を見出せずにいた。
その日は酷く暑く寝苦しい夜だった。俺はいつものように部屋をブンブンと飛び回る蚊と格闘。パチン、パチン、パチン。5、6匹ほど粛清した俺は、「この私の血を吸おうとは、とんだお馬鹿さんがいたものですよ」、すっかりフリーザ様気分で満悦し電気を消して床に着いた。
しかし1時間、2時間、その日に限ってなかなか寝付けずにいると、静寂の部屋に小さな小さなあの音を耳に感知した。カサカサ、カサカサ、カサカサ…「カサ子さん」だ。おぼろげだったそのラップ音は徐々に徐々にはっきりと大きくなり、姿見えざる何物かがどんどん近づいて来る。幽霊、ポルターガイスト、そんなのあまりに馬鹿げている。俺は堅く目をつむり、ベッドの中でひたすらにそれが過ぎ去ってくれることを祈り続けた。
目が覚めると、すでに昼過ぎだった。いつの間に眠ってしまったのか、なぜこんなにも長く眠り続けてしまったのか、そしていまだ耳の奥に記憶するあの音は一体何だったのか。最悪の寝覚めだ。しかし気にしても始まらない、そして腹も減った。幸いにもその日は休日、俺は遅めの昼食の支度をすることに。
そして俺は身の毛もよだつおぞましい惨状を目にすることになる。10kgの米袋を開くと、そこには3、4匹の黒光りしたゴキブリがカサカサ、カサカサと蠢いて…。
以来俺は、コンパクトな5kgの米袋を買い、それを冷蔵庫で保管するようにしている。皆さんも是非そうすることをお勧めしたい。