高校時代、俺の1コ上にA先輩という人がいた。元より人の名前を覚えるのに無頓着な俺。同級生ならまだしも上級生の名前など知ったこっちゃない。その俺が直接話したこともないのに知っているのだ、それだけA先輩は学校中の有名人だった。
A先輩は校内のありとあらゆる文化系イベント・コンテストでことごとく優勝。加えて超イケメン、校内ミスター・コンテストでもグランプリを獲っている。一言で言うならただの目立ちたがり屋。しかし俺の高校は県内随一の進学校、埼玉中から知力の猛者たちが集まって来る。その中においても他を圧倒するパフォーマンス力、これは素直に突出した才覚と称えるべきであろう。
さて俺は高2の時、校内スピーチコンテストのクラス代表に選ばれた。全くやる気はなかったが予選を通過、そして全校生徒の前で原稿を読み上げる本大会において、俺は2位のA先輩以下に圧倒的な票数差をつけて優勝してしまった。喜ぶよりも先に俺は思った。「俺には到底理解出来ないが、校内のイベントというイベントを総ナメにするのがA先輩の生き様。そして俺はまだ2年、スピーチコンテストだったらA先輩と被らずとも来年だって出られた。少々悪いことをしたかな」。
しかしそれから半年後、風の噂でA先輩が現役で東大に受かったと聞いた。そして俺は思い直した、「おのれ、この完璧超人め。やはりスピーチコンテストひとつだけでも、鼻っ柱をへし折っておいて正解だったぜ」。