既述の通り、俺は肺を患い1ヶ月ほど入院していた。病棟の大ホールに男性患者がわらわらと集まれば、自然発生的に起こる一大イベント、それが腕相撲大会である。これがとにかくめちゃくちゃ盛り上がる。
そして俺は暫定チャンピオンとして、破竹の勢いで勝ちまくっていた。そりゃあそうだろう。学生時代より俺は、腕相撲で友人に負けたことがほとんどない。ましてここは入院病棟、周りはフラフラの入院患者、それも50、60の年配者ばかりだ。こんなところに俺の敵がいる訳がない。
しかし1人だけいたのだ、容易には勝たせてくれなかった相手が。その人は齢50過ぎ、やや小太りながらも俺よりも一回りも小柄な、まさにどこにでもいそうな初老のオッサンだ。Ready go!動かない、互いにピクリとも動かない。五分と五分、両者の力は全くの互角。そして10秒以上に渡る接戦の末、辛くも俺がなんとか勝利。まさに額に汗にじむ大苦戦であった。
「井の中の蛙、それにすら勝らず」。完全に思い上がっていた俺が身の程をつくづく思い知らされる、そんな入院生活の1コマであった。