知らず知らずに時は過ぎ、気付けば俺もすっかり老いさらばえてしまった。残された余命もせいぜいあと50年くらいだろう。老骨が朽ち果てんとする今、人生を振り返り悔いや未練を数えても仕方がない。しかしもし最後に願いが叶うならば、俺は友人とサッカーがしたい。
さて一口にサッカーと言っても、求められる素養はまさに千差万別である。例えばフェイントやショートパスにサイドクロス、これらのテクニックは「運動技能」である。一方そんなテクなど欠片もない俺の唯一の武器、それはダッシュ力。ボールを持ち最初の1歩2歩で相手を置き去りにするスピードだ。これは「身体能力」に分類されよう。
「運動技能」というのは歳を経てもそう簡単に失われたりはしない。例えば幼き日に身体で覚えた自転車の乗り方、それをいつまでも忘れないのと一緒である。しかし「身体能力」は全く違う。だいたい18歳から20歳を峠とし、そこから坂道を転がるようにどこまでもどこまでも際限なく落ちていく。
嗚呼、衰えゆく。こうしている間にも、この身体は刻一刻と衰えゆく。もしも望みが叶うなら、人生最後のサッカーがしたい。それも今すぐに、かろうじてこの脚が人より速く走れるうちにだ。しかし例えばミニコートで3 on 3。鳴らない携帯を握りしめても、もはや俺には友人6人を集める人望すらない。無念。