20世紀以降最大の科学的発見とは一体何であろうか。
恐らく世の中の90%以上の人が、A.アインシュタインの「一般相対性理論」を挙げるだろう。しかし実のところ、我々は一般相対性理論の恩恵をほとんど受けていない。人類の科学技術はまだ、一般相対性理論を必要とする水準に全く達していないのだ。
得られた実益の大きさで考えるのであれば。
現代科学最大の発見は、E.シュレーディンガー、W.ハイゼンベルク、M.ボルンら数多の物理学者たちによって構築された「量子力学」であろう。携帯、パソコン、電子機器など、今日の電子工学は量子力学なくして成り立ち得ない。
しかし俺にはこの量子力学がさっぱり理解できない。
当たり前だ、俺は文系学部卒なのだから。難解な数式を並べられてもそれが何を意味し、どのように展開し得るかなど俺に分かろうはずがない。けれど俺が言っているのは、そういうことではない。もっと根本的なレベルで、量子力学が啓示する世界観をどのように解釈していいのか分からないのだ。
量子力学が示す森羅万象の姿を端的に言い表すなら。
「物質はどのような状態でも存在し得ず、存在を認識した時初めて物質は固有の状態で存在し得る」。多少なりとも分かりやすく言うと、「1+1は2でも3でも1でもなく、演算して初めて2に確定する」。果たしてこれは自然科学と言えるだろうか。量子力学の登場は16世紀以降きっぱり一線を画して来た神学・哲学と近代科学の境界を再び曖昧にし、多くの物理学者たちを思想家に変えてしまった。
「物理」とは「物の在り方を司る理」を求める学問である。
ならば、物理学の現到達点における暫定的結論はあまりにも皮肉だ。「物はそれ自体によっては在ることはできない」、それが理なのだから。