俺の出身中であるS市立H中学は、埼玉県の中でも下から数えられそうなアホ中であった。そんな中、俺と今尚親しい友人A氏は学年1位、2位を競っていた。そして恐らくH中初の快挙、県内随一の難関U高校に2人そろって進学。そこでも互いにしのぎを削り、いざ大学受験。A氏は早稲田大学、俺は日本大学、残酷なまでの明暗を以て俺たちの受験戦争は終わった。
受験時代、A氏は口癖のように言っていた。「勉強しないから勉強ができない、それは理由にならない」。全く以て正論、東進ハイスクールの講師に聞いても全員が全員同じことを言うだろう。しかし俺は、どうしてもその言葉が受け入れ難い。俺は恐らくA氏の3倍は勉強した。そこまでしないと俺はA氏と肩を並べられなかった。また勉強では俺が勝るものの、自分より潜在能力が高いヤツを嫌というほど見てきたのだ。
さて日本大学において、俺は中学の同窓B氏と再会する。中学時代、決して学年トップクラスの成績ではなかったB氏。本格的に仲良くなったのは、大学入学以降である。
俺はB氏に勧められるように、地元の友人たちと麻雀仲間に。その時初めて牌を握ったのだが、麻雀とは多分に数学的センスを要するゲーム、そしてそれは俺の得意分野だ。俺はすぐに周りの友人たちを追い抜き勝率で2番手に。しかしそれでようやくプラマイトントン、B氏だけには絶対に勝てないのだ。「いくら雀歴が長いとは言え、こんなにも勝ち続けられるものか。現に俺が追い抜いた友人たちも、俺より遙かにキャリアが長いではないか」。
そして俺は、B氏のポテンシャルを否応なく見せつけられることになる。ある時、俺とB氏でオンライン囲碁をやろうという話に。しかし俺もB氏も囲碁のルールなど全く知らない。B氏曰く「まあ適当にやってれば、何となく分かってくるだろう」、まさしくその言葉通りであった。ルールさえも理解できない俺を尻目に、B氏はするするとコツを掴み、石を置いていく。
結果、156目半差でB氏の勝ち。プロはもちろん、アマや学生の対局でもまず見られないとんでもない大差だ。俺の疑念は確信に変わった。「これがB氏の潜在能力か。仮に同じ量の勉強を積んでいたら、間違っても俺はB氏に勝てない」。
日大卒業後、俺とB氏はすっかり疎遠になってしまった。しかしA氏との腐れ縁は永劫に続いていくだろう。「コイツは自分の恵まれた才能を知らない。敗者を知らない、弱者を知らない。もし勉強をしなかったら、努力をしなかったら人並み以下、そんな俺を全く知らない」。学生時代を思い返しては、今尚A氏に対し俺は嫉妬心を禁じ得ないのだ。