一生忘れられない、ある老人の両手 | まきしま日記~イルカは空想家~

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ちゃんと自分にお疲れさま。

既述の通り、
俺はこのお盆、10日間ほど入院していた。

別に病状はなんてことない。

血液検査の結果、腎機能の値があまり良くなかったので、
一応大事をとってとのことであった。

しかし当たり前だが、入院病棟には、
俺みたいな軽い症状の患者ばかりではない。

中には数ヵ月、場合によっては数年、
長期入院を余儀なくされる患者もたくさんいた。



ちなみに、俺が入院した病棟では、
34歳になる俺が一番若かった。

つまり、年配のオッサンやじいさんばかりだったのだ。

10日間も入院していれば、歳こそ大きく離れども、
自ずと談笑仲間は出来るもの。

彼らもまた、
数ヶ月から数年に及ぶ入院を要する人ばかりであった。



さて、俺が入院した病棟。
そこのスタッフの質は、まさに劣悪極まるものであった。

患者に対して暴言、罵声は当たり前、
時には平気で手まで上げる。

まさに目を疑うような光景が、平然とまかり通っていた。

幸い俺は手のかからない模範生。

スタッフにも気に入られていたのか、
特に不当な扱いを受けるようなことはなかった。

しかし、それでも。

自分と仲良くしている患者さんたち、
彼らに対する、スタッフのあまりにも横柄な対応。

それは見ているだけで、
まさにはらわた煮えくり返るものであった。



そして退院前日、
俺の溜まりに溜まった怒りは、ついに爆発した。

病棟の喫煙所、俺は患者仲間たちにブチまけた。

  「ここのスタッフの態度はあまりに酷いですね!

  スタッフ、患者関係なく、自分の親父ほども年上の、
  年配者を一体何だと思ってるんだ!!

  俺はスタッフに言いたいです!

  もしアンタの親父が病気になって入院して、
  自分よりも若造のスタッフに罵倒されていたら?

  アンタはそれを見て、心が痛まないのか!!」

するとその中の一人、70にもなろうかというじいさんが、
両手で俺の手をとり、俺の目を見つめて言った。

  「よく言ってくれた…
  ありがとう!本当にありがとう!!」



退院して、もうすぐ半月が経つ。
あの時の患者仲間、もう二度と会うことはないだろう。

しかし彼らは今も入院している。
そしてきっとこの先何年も。

あの時、俺の手を握ったじいさん。
か細く弱々しく、しかし確かに力のこもった熱い両手。

その両手が、今でも苦しく俺の胸を締めつけるのだ。