これも入院中の話。
34歳になる俺が、男性病棟では一番若かった。
つまり、入院患者は年寄りのじいさんばかりだったのだ。
どういう訳だか、じいさんという生き物は、
若い頃の武勇伝を語るのが大好きだ。
ヤクザ者をやっつけただの、1人で5人相手に勝っただの、
俺は話半分に相槌を打っていた訳だが…
俺だってこれでもキOタマの付いた男だ。
聞いているばかりではなく、自分も武勇伝を語ってみたい。
しかし俺は根っからの小心者。
人を殴った話など、持ち合わせちゃいない。
ならば”人以外の物を殴った話”をすればいい。
俺には鉄板の武勇伝がある。
「ゲーセンにパンチングマシンってあるじゃないですか。
前にテレビで、元世界ミドル級チャンピオンの竹原が、
パンチングマシンを打ってたんですよ。
そのスコアが221。
で、地元のゲーセンに全く同じ機種のマシンがあって、
俺も打ってみたんですよ。
そしたらスコアが232、竹原に勝っちゃいました」
これが百発百中、どこで話してもバカウケなのである。