「絶対的真実」など、所詮は幻想だ。
我々が唯一普遍と信じて疑わない、この全宇宙・森羅万象。
それはあくまで、我々から見た世界の姿である。
もし我々以外の存在がこの世界を見た時…
森羅万象は、全く異なる姿を見せるのかも知れない。
俺は文系学部卒ながら、天体物理学、
要するに宇宙論に非常に強い興味を抱く。
そして思う。天体物理学と言う学術分野、
それは我々人間だからこそ構築出来たのであろう。
人間は全知覚の実に9割を視覚に頼る、いわば「視覚型生物」だ。
人間にとって、この世界とは何か?
それは「可視光の写映」である。
視覚に頼る人間だからこそ、
可視光の観測による天文学を発祥出来たのだろう。
それが発展し、今日の電磁波観測による天体物理学がある。
ならば、もし人間ではなく犬が進化して文明を開き、
科学を築いていたら?
犬は全知覚の9割を嗅覚に頼る、「嗅覚型生物」だ。
嗅覚に頼る犬が、可視光・電磁波を手掛かりに宇宙を探求する、
そんな発想を果たして持ち得ただろうか?
俺は思う。
犬の文明においては、天体物理学はほとんど発展しないか、
あるいは発祥さえしていなかっただろう。
さて、嗅覚とは物体の飛沫が、
直接鼻腔に付着することにより得られる知覚である。
犬にとって、この世界とは何か?
それは「接触する物質」である。
従って、犬の科学文明においては、
化学分野が恐ろしいレベルで発展していた可能性が考えられる。
例えば医薬品の開発。
嗅覚型生物の彼らであれば、
ガンの特効薬など、余裕で完成させていたかも知れない。