俺の親父は小学校の教師だ。
今でこそ何かと体罰が問題となっているが、
ふた昔ほど前まで、教師が生徒に手を上げるのは当然だった。
そして家でもまた、俺は親父に何度叩かれたか分からない。
俺にとって親父とは、
まさに力の象徴、支配の象徴、そして恐怖の象徴であった。
高3の時、俺は初めて親父に腕相撲を挑んだ。
その時の威圧感は、今でも忘れられない。
俺よりひと回りも太い腕、手の平に感じる確かな握力、
そして幼少期、俺を震え上がらせた鋭い眼力。
背筋が震える。それはあまりにも恐ろしい挑戦であった。
Ready go!
勝負はまさに一瞬で決まった。
抵抗を感じる間もなく、0コンマ3秒、
俺は親父の腕を卓上に叩き付けていた。
そしてその時、俺は悟ってしまった。
「もし親父と本気で殴り合ったら、俺は親父を殺してしまう…」
かくして俺は、親父に対し反抗期を迎え損ねた。
高3の腕相撲対決、あの時よりさらに老け込んだ親父。
もはや腕相撲でさえ、俺は親父の腕を傷めてしまうだろう。
ただ、俺は今でも心残りでならない。
一度でいい。力の象徴、支配の象徴、そして恐怖の象徴。
本当に怖かった頃の親父とガチンコで殴り合ってみたかった。