【妄想劇場】 自由への招待 | まきしま日記~イルカは空想家~

まきしま日記~イルカは空想家~

ちゃんと自分にお疲れさま。

「これから見せるVTRは、
人間の自発的意志は先天的なものではなく、
後天的学習によって備わる、と言うことを、
明確に立証するものです」

「ふむ…実に興味深い。
しかし後天的学習と言うのは、
君が思っているほど大袈裟なものではない。
生まれてすぐに目にする視覚情報、
耳にする聴覚情報、
これらは立派な後天的学習の要素だ。
それらを完全に遮断することなど可能なのかね?」

「VTRに登場する20歳男性、
我々はCT-1と呼んでいますが、
CT-1は生まれてすぐに暗室に閉じ込められ、
以後20年間、一切の外部的刺激から閉ざされています」

「ふむ、それで…」

「これから実験の中で、一時的に暗室を開放し、
CT-1を外部世界との接触が可能な状況に置きます。
その時、果たしてCT-1は、
自発的行動の意志を示したか、
それを詳細に記録したものです」




ガタンッ、ゴトゴトゴト――
開かれるはずの無い扉が、重々しくおごそかに開かれた。
彼は自分が今、遭遇した状況を理解出来なかった。
ただ、彼の視覚を強烈な刺激が襲った。
それは生まれて初めて目にする”光”であった。

突如として彼の前に開かれた新たな世界、
それはあまりに眩しく、とてつもなく広かった。
彼の鼓動は高鳴り、手足は激しく打ち震えた。
誰に教わるでもなく、本能が彼を促した。
歓喜せよ、これは”自由への招待”である――

しかし暗室から踏み出さんとする足を、
強烈な警戒心が引き止めた。
恐怖!恐怖!恐怖!
全ての感情は恐怖へと収束した。
突如として開かれた自由、突如としてもたらされた歓喜、
それらを受け止めきるには、
彼の置かれていた世界はあまりに小さく、そして排他的であった。

ガタンッ――
二度と開くことのない扉は閉ざされた。
彼の本能は悟った、もたらされた自由が永遠に閉ざされたことを。
何もかもが再び戻った暗室の中、
彼は吐血するほど激しく慟哭し、
気が振れたかのようにただ扉をかきむしった。
いつまでも――いつまでも――




「以上、ご覧いただいたように、
CT-1は一切の自発的行動の意志を示しませんでした。
これは人間の先天的な行動動機を完全に否定するものであり、
この実験データがもたらす功績は…」