【妄想劇場】 時間 | まきしま日記~イルカは空想家~

まきしま日記~イルカは空想家~

ちゃんと自分にお疲れさま。

「パニック障害ですね」

私が医師から聞き慣れない、
けれど聞くからにおどろおどろしい診断名を受けたのは、
25歳の春だった。

私は誰よりも努力して一流大学に入った。
そして数百倍もの倍率を突破して一流商社に入った。

いよいよこれから、という時だった。



悪魔の予言とも言うべき、
医師の警告する兆候が現れるのに、
そう時間はかからなかった。

苦しみ、辛さ、悲しみ、そういった気持ちが極限まで達すると、
全てはただ一つの感情、恐怖へと収束する。

人前が怖い!人ごみが怖い!電車内が怖い!
理由なんて分からない!

こうして私は、
会社を退職せざるを得なくなった。



そして私は全てを失った。

解放とは、即ち絶望だった。

今も地球は回っている。
ただ一人、私だけを取り残して。

私の存在など無視して、
他人事のように過ぎ去っていく時間が、
ただただ恨めしかった。



「これが20年前、
私が初めて医師から診断を受けた時のことです」

私は今、教壇に立っている。
私は「全国心の病と闘う会」の会長になった。

私は日々、多くの人を励ましている。
これは私にしか出来ない仕事、
なぜなら、苦しみは人から学ぶことが出来ないからだ。

スピーチの最後に、私はこう付け加えた。
「刻々と過ぎていく時間を、どうか恨めしく思わないでください。
時間は常にあなたの味方です」