【妄想劇場】 余命 | まきしま日記~イルカは空想家~

まきしま日記~イルカは空想家~

ちゃんと自分にお疲れさま。

かつて絶世の美女と謳われた女帝。
この地上にある全ての富を手中に収めた彼女であったが、
ただ一つ、手に入れられないものがあった。
永遠の美と若さである。

老いは刻々と、彼女の美貌を崩していった。
そんな時、ある占い師が彼女に進言した。
「若き乙女の生き血を飲みなされ。
そうすれば貴女は、永遠の美と若さを手に入れられる」

その日から彼女は、美と若さに取り付かれた。
若い娘をさらってきては、その生き血をすすった。
その惨劇は誰にも知られることなく行われ、
城の地下牢は真っ赤な血で染まっていった。

鏡を見る度に、
彼女の残虐性は増して行った。
この私に美を。この私に若さを。
殺された乙女の数は、ついに99人にものぼった。



ある晩、彼女は不思議な夢を見た。
ここは裁判所…?そして私がいるのは被告席…?
そして法廷席に座っているのは、
全身から神々しく金色の光を放つ人の形をした裁判官だった。

そのうちの1人が、判決文を読み上げた。
「お前は99人の娘を殺害した。
それによってお前が奪った娘の余命は、合わせて5000年に達する。
よってお前には、5000年の余命を与える」

目が覚めて、
女帝は鏡を見て驚愕した。
しわ一つない肌、黒ダイヤのような瞳に紅色の唇。
彼女はかつての美貌を取り戻したのだ。

女帝は歓喜した。
ついに永遠の美と若さを手に入れた。
この世の全ての富にも勝る宝、
ついに私は神にも比する存在になったのだ。



それから1000年が経った。
彼女はいまだに死ねずにいる。
何度も自殺を試みた。
しかしたちどころに傷口がふさがってしまうのだ。

彼女はようやく気付いた。
自分に与えられた5000年の余命は、罪を償うための時間なのだと。
しかしそれは残酷なくらい長かった。
次の1000年、その次の1000年、私は何を期して生きていけばいいのだろう…。