「もしもし…」
「はい、どなたですか」
「私はこういう者ですが…」
「イデオロギー提供サービス株式会社…?」
「この度は人間としてご誕生なさるそうで…」
「ええ、来月懐妊予定です」
「それはそれは、おめでとうございます」
「ええ、かねてよりの申請が無事通りまして、今から楽しみでなりません」
「今日はそんなお客様に耳よりのサービスをお持ちして参りました」
「はあ…なんでしょう?」
「当社ではこれからお生まれになるお客様に、”イデオロギー”を提供させてもらってまして…」
「イデオロギー…何でしょう、それは?」
「まあ、平たく申しますと、『人を支配する考え方』とでも申しましょうか…」
「はあ…考え方…ですか?」
「お客様はこれから”自由”な人間としてお生まれになられる訳でして…」
「ええ、人間として生まれれば、何でも自由に人生を決められると聞いておりますが」
「ところが、これからお生まれになるお客様のほとんどが、”自由”を実に楽観的に考えられておれれる…」
「はあ…と、言いますと?」
「”自由”ということは、『何の考え方にも縛られない』ということでございます。ところが、何にも縛られず、自分自身の考えのみで行動し、人生設計をされるというのは、これがまた実に難しい。常に葛藤や懐疑、自問といった苦悩を抱えて生きなくてはならないことになります」
「はあ…そんなもんでしょうかねえ?」
「事実、当社のリサーチによりましても、すでに人生を終えられたお客様の3人に2人が『”自由”を持て余した』と回答なされております」
「そんなにですか?」
「そこで当社のサービスでは、お客様に”イデオロギー”を提供して、生まれる前に予め考え方に縛られていただきます」
「はあ…」
「”イデオロギー”に考え方を委ねることによって、無駄な葛藤から解放され、スムーズに人生をお運び頂けるという…」
「なるほど、それは便利なサービスですね」
「ただ、ご契約に際しまして、お客様のこれから生まれ持ち合わせます”自由”の70%を頂く形になりますが…」
「え!そんなにですか!」
「その点に関してはご安心を。ほとんどのお客様が、本来の30%の”自由”も使い切れずに人生を全うされております」
「なるほど…」
「どうです?ご契約いただけますか?」
「そうですね、契約しましょう」
「ありがとうございます!では、こちらにサインを…」
「…」
「”イデオロギー”の内容に関しましては、宗教、政治的態度、学歴主義、その他諸々の中からお選びいただけますが…」
「では、学歴主義でお願いします」
「分かりました、これで契約は完了でございます。これでお客様は、生まれながらに学歴主義に縛られることになります。お客様のこれから始まる人生のスムーズな運営を、当社が責任をもって保証させていただきますので、どうぞ良い一生を…」
「ええ、ありがとうございます」
おぎゃーーーー!!おぎゃーーーーー!!
「やっと僕たちの子供が生まれたね」
「ねえ、あなた。私、この子を東大にいれたいわ」