その若き天才物理学者は、
あるものの発明に、その全精力を注いでいた。
男が発明しようとしているものはタイムマシン。
今まさに男の手によって、
時間旅行の扉が開かれようとしていた。
男には目的があった。
それは過去にさかのぼり父親を殺すこと。
男は父親の顔を知らない。
自分が生まれてすぐに自分と母親を捨て、
姿を眩ました父親。
男は父親に復讐をしたい一心で、
その半生を研究に賭してきた。
そしてついに完成したタイムマシン。
男はさっそくマシンのドアを開き、
その白銀の球体状の操縦席に乗り込んだ。
。。。。。
時空をすべるように滑空していくタイムマシン。
行き先は男の生誕日。
そこに居合わせていたはずの自分の父親。
男は半生分の復讐心をたぎらせ、
航海はいたって順調であるかのように思われた。
その時、
タイムマシンの胴体を激震が襲う。
何だ?何が起きた?
どうやら亜空間振動シフトの接続が不完全だったようだ。
激しく時空の波に揺さぶられるタイムマシン。
男は操縦席で気を失ってしまう――
。。。。。
目が覚めた時、
男は見知らぬ空き地に放り出されていた。
いや、見覚えがある!見覚えがあるぞ!
ここは自分の生家が建つはずの場所だ!
しかし、一体ここは何時だろう?
自分の生誕日の前後には違いないのだが…。
男はとにかく手がかりを探すことに。
どこかに自分の父親につながる情報があるはずだ。
しかし、丸一日足を棒にして彷徨い続けたが、
父親につながる手がかりはどこにも無かった。
。。。。。
心身ともに疲れ果てた男は、
フラっと場末のバーに立ち寄った。
やり切れない虚しさを、
ビールのグラスに映し出して喉に流し込む。
自分の半生は一体何だったのだろう?
復讐心だけに翻弄され続けた挙句、
こんな何時かも分からぬ時代で途方にくれる自分。
そして男は、
バーで一人の女性に出会う。
疲れ果てた男にとって、
癒しを求める相手は誰でもよかったのかも知れない。
二人は一目見るなり、
互いに惹かれ合った。
そして男は、
名前も知らぬその女性と一夜をともにした。
。。。。。
翌朝、
女の名前を聞いて男は凍りついた。
それが自分の母親の名前だったからだ。
まさか…!そんな馬鹿なことが…!
男は慌てて部屋のカレンダーを確認した。
もはや疑うことは出来なかった。
それは男の生誕日の10ヶ月前だった…。