【妄想劇場】 完璧な人間

「お父さん…」
「…マサトか…？」

「あなたは…あなたという人は…こんな惨めな生活をしていたのですか！？」
「12年ぶりだな、マサト…」

「…」
「…茶でも飲むか？」

「よして下さい！」
「マサト…」

「あなたは…僕の知っているあなたは、完璧な人間だった！経営者としても、父親としても、そして人間としてもです！」
「…」

「それがあなたは…12年前会社が経営破綻して、多額の借金を抱えて姿を眩ました…」
「…お前たちには本当にすまないことをした。詫びても詫びきれんのう…」

「そんなことを言ってるんじゃありません！あなたに僕の気持ちが分かりますか？」
「マサト…」

「僕は誓った！あなたを超える人間になろうと！あなたを見返すためです！」
「…」

「僕は一流高から一流大へ進み、トップクラスの成績で一流企業に入った！」
「…」

「そしてようやくあなたの消息を突き止めた！僕は思った、ついに見返す時が来たのだと！」
「…」

「そうしてようやく会えたあなたは…あなたはこんなにも見下げ果てていた…僕の目指していたあなたはどこにもいなかった…」
「…」

「あなたを心底軽蔑します！」
「マサト…」

「…」
「…」

「…」
「完璧な人間か…それは俺がお前に見せてしまった虚像だな…」

「…お父さん？」
「完璧な人間などいやせんのだ…そんなものは幻想に過ぎぬ…」

「それは言い訳ですか？それはこんなに落ちぶれて向上心の欠片もなくしてしまった今のあなたには分かるはずがない」
「…」

「僕は決して今のあなたのような人間にはならない！かつてのあなたのような完璧な人間になりたいんだ！」
「昔の俺は決して完璧な人間などではない。今の俺がそうであるようにな」

「あなたの言っている意味が分かりません」
「なあ、マサト、お前がその向上心にまかせて突き進むのは素晴らしいことだ。だが完璧であることを追ってはならぬ。完璧であることを目指すならば、自ずと欠陥を抱える自分が醜く見えてくる。自分を愛せなくなってくる」

「やめて下さい！理解出来ません！」
「人間は完璧であってはならんのだよ。故に悔いる。故に涙する。これらは全て人間に背負わされた業だ。だから人間は人間らしくあれるのだ」

「…」
「所詮、完璧なものなどありはせんのだよ」

「…」
「…」

「これ以上あなたの戯言に付き合う気はありません。これで失礼します」
「そうか…」

「でも…今日あなたと話せて良かった…」
「また気が向いたらいつでも来るといい」