フランスの巨匠がつむぐ曖昧な愛
粗筋を説明しても、この映画の魅力は伝わらない。
長いキャリアの末にフランス映画界の巨匠の仲間入りを果たしたアンドレ・テシネ監督は、時の流れを行きつ戻りつしながら多くを語らない。
ただ、深い森を歩きながら目印に落とすパンくずのように、登場人物の心理を推察させる手掛かりを忍ばせる。
複雑で曖昧な心と心の結びつきが、作品に緊迫感と詩的なトーンを与えている。
兄のアパルトマンに転がり込んだマルタン(アレクシ・ロレ)は、同居人のアリス(ジュリエット・ビノシユ)と恋に落ちる。
だがアリスの妊娠を知り、マルタンは狂気の中に引き籠もる。
彼には罪深い秘密の記憶があったのだ。
撮影にも編集にもひらめきが感じられるこの映画は、思いもしない方向に飛び続ける。
それをつなぎ留めるのが、ビノシュが発散する暗く一途な情熱だ。
一方のロレはビノシュの相手役としては力不足。
未熟な演技のせいで、作品は可能性を発揮し切れていない。
とはいえテシネの映画作りは、ほかの監督とは一線を画す。
欠点はあるものの、文学的な深みを持つこの作品に比べれば大抵の映画は子供向けに見えてしまう。
【2000.9.20】
監督/アンドレ・テシネ
主演/ジュリエット・ヒノシュ
アレクシ・ロレ