シャピュイ・プレイズ・タプレイ
仕事を終えて、一路三鷹へ急行する。
三鷹駅から徒歩で15分ほどのところにあるホール、武蔵野市民会館が今日のコンサート会場だ。
ここにはマルクッセン&ソンというデンマーク製のパイプオルガンがある。
そして奏者は先日も南アルプス市の桃源文化会館で夏期講座と演奏会を行われたヴェルサイユ宮殿のオルガニスト、ミシェル・シャピュイ先生である。
あわてて駆けつけたために、社にジャケットを忘れる。もっとも今日は暑かったのでその必要は無いのだが、先日桃源で先生と写真を撮っていなかったこともあって、ジャケットは必携のはずだった。
ホールに入りパンフレットを頂戴し、座席へ。470席という小さなホールだが、本日は完売。昨今のオルガンコンサートで満席は非常に珍しい。それだけ注目されているという事だ。
座席は最前列中央。思い返せば3年前、サンドニのオルガニストで尊敬する友人、ピエール・パンスマイユのコンサート もこの席だった。夫妻が私のために招待してくれた席だったのだが、彼の香水が我々の席まで届いたのが印象的だった。
さて、本日の演目は
(作者不明)
ヴェルサイユの洞窟(作者不明)
まぼろしの第一旋法の組曲~L.マルシャン vs J.S.バッハ
・プラン・ジュ(マルシャン)
・フーガ(マルシャン)
・カンタータ第106番よりアリア(バッハ)
トランペットのバス(マルシャン)
・ティエルス・アンタイユ(マルシャン)
・カンタータ第35番 「心も魂も乱れはて」(バッハ)
L.マルシャン~テデウムより
・レシ
・ディアローグ
F.ダジャンクール
第2旋法のディアローグ
J.F.タプレイ
2つのノエル(未出版)
J.S.バッハ
・コラール「われらみな唯一の神を信ず」BWV740
・幻想曲 ト長調 BWV572
M.シャピュイ
・即興演奏
本来はタプレイの作品は予定されていなかった。
パンフレットを見ると「演奏者の強い希望により」とある。
タプレイは私にとって大変ゆかりの深い作曲家。
放送の仕事を始めようと、職場見学をしたとき、当時の上司からラジオのエンディング曲を選んできなさいと命じられ、悩んだ挙句に提案したのがタプレイのオルガン協奏曲だった。 上司がそれを精査し、私は放送にその曲が出されるか固唾を呑んでラジオにしがみついていたら、自分の選んだこの曲が流れた。
タプレイはそんな所縁のある作曲家なのだ。バロック愛好家でも彼の名を知らない人は多いと思う。それくらいマイナーな作曲家でもある。
久々にタプレイの作品を聴いたのだが、さらに良かったのが最期の即興演奏。
バッハのカンタータを主題にした即興で、聴いていてオルガンが生きているという印象が込み上げる。先週の南アルプス市でも、桃源にあるオーベルタンを最も生き生きとさせるのはシャピュイ先生だけだという声を幾名の方から聞いた。私はそれほど耳の肥えた人間ではないのだが、踊るような旋律と、我々に語りかけるような響きが私にも伝わる。 久々に目が潤むコンサートだった。
明日、私は先生をNHKホールにお招きする。
ここには日本最大級のオルガンがありながら、この20年近く演奏会も行われず、忘れ去られていた。私はこの業界に入って、この楽器の復活を長く待ち望み、呼びかけてきた。 明日はそんな一人のオルガン狂が勤める6年間の総決算である。
20年近くもの深い眠りについていた、オルガンを目覚めさせてくれるであろう明日の演奏を思うと、今ここ泣くわけには行かない。
休憩時間や終演後、ホワイエに出ると、先日お目にかかった方々にお会いする。
終演後のレセプションにも同席させていただくも、明日のディレクターからの電話や取材申し込みに追われて心ここにあらずのまま、一日が終わった。