【第49話】NHKホールのシュッケ・オルガン (東京都) | blog.正雅堂

【第49話】NHKホールのシュッケ・オルガン (東京都)

NHKホール


明日のNHK入社式の中継収録のためNHKホール で仕込み作業を行う。

例年、NHKの入社式ではオルガンの荘厳な響きで幕が開ける。仕事柄、その収録のために何年かその場に立ち会っているが、何度見ても、戴冠式のようなイメージを持ってしまうほど、華やかな入社式である。


テレビ局の入社式であるから、演出も凝っているというわけだ。


今年はそのフロアディレクターとして、オルガン担当に任命された。

奏者はオルガニストの井上圭子 さん、ほぼ毎年、この入社式の演奏を勤めておられる。

以前、とあるオルガン建造家にご紹介いただいて、宮城県のコンサートホール、白石キューブで御一緒したことがあった。お綺麗な方で、私が尊敬するオルガン奏者の1人である。


さて、NHKホールのオルガンについてであるが、コンサートホールに設置されたパイプオルガンとしては、日本最初とも言うべきこの楽器は1973年に旧西ドイツから輸入された楽器である。メーカーはシュッケ社 。同じ楽器が鎌倉市の雪ノ下教会 にある。こちらは礼拝用の小さな楽器であるが、柔らかい音色を持つ楽器だった。

NHKホールのオルガンはストップ数92、パイプ数7,640本、5段鍵盤を持つ世界最大級のオルガンである。

大きければいいというわけではないが、私はこのオルガンが最も好きである。


このオルガンが完成した当時は大変なニュースで、NHKでも大きく報道された。このオルガンを杮落としで演奏したのはイルジー・ラインベルガー教授。チェコスロバキアのオルガニストだ。

ラインベルガー教授はこのコンサートを終えて離日したあと、まもなく自動車事故でお亡くなりになったという。詳しい事を調べてみたが、何も見つからない。



NHKホールのコンソール  NHKホールのオルガン内部

(左:コンソール 右:オルガン内部)


その後は、フランスのミシェル・シャピュイ、マリー=クレール・アラン、ジャン・ギュー、イギリスのサイモン・プレストン、アメリカのカルロ・カーリー、などなど、世界中の綺羅星のようなオルガニストが次々に来日し、名演を行っていた。

ところが、その全盛期もサントリーホール の開館と共に廃れてしまった。

サントリーホール は、当時にしては珍しいクラシックコンサート専用ホールで、360度すべてが客席という、ワインヤード形式のホールだった。音響もクラシックコンサート仕様に設計されており、そこに据えつけられたオーストリアのリーガー社オルガンも、NHKホールのそれを十分に補えるほどの規模をもつ楽器であった。

 そのため、多目的ホールという性格柄、完璧では無い音響のNHKホールで、オルガンコンサートが開かれることは、次第に少なくなり、オルガンといえば、サントリーホール・・・という構図が出来上がってしまったのである。 非常に勿体無い。


NHKホールのオルガン内部  NHKホールのオルガン内部


あるオルガニストにどうしてもNHKホールはダメなのか、という問いをしたことがある。

その方が言うには、第一にNHKホールは大きすぎるという。

なるほど、NHKホールは3600人も収容できる大ホールだ。ここを満員にさせるクラシックコンサートは難しい。ましてやオルガンソロコンサートとなれば、なおさらである。

満席になると、音響も変わってくる。また、演奏者にしてもサントリーホール 東京オペラシティ ならば、ほぼ満席に近い1000人が、NHKホールに入ったとしても3席に1席の割合しかいないような聴衆では、演奏に対する入れ込みも変わってこよう。 聴衆・演奏者互いに不幸だ。


ここでコンサートが行われなくなって、もう15年近く。最近では入社式のような式典や、稀にJ-POPS番組の収録に使用されるか・・・・という程度の稼働率。

このまま朽ちていってしまうのかと思うと、なんとも残念な楽器である。