Holo i mua! ー前を向いて歩こうー

Holo i mua! ー前を向いて歩こうー

タロット勉強中!
日々の気付きと、あれこれと

まみこの住む街には、「イヤさま」と呼ばれているモノがいる。

年寄りたちは、神さまの一種だというが、まみこにはそうは思えない。

イヤさまは、その名の通りイヤな見た目をしている。

小さくて猫背で、怒ったような、バカにしたような半笑いの歪んだ表情をして、他者を睨みながら歩き、目が合うと、「はんっ」といって顔を背ける。こっちもついしかめっ面になってしまうような見た目なのだ。

イヤさまは、みんなの嫌がることをする。

小さな子が砂場で山を作っていれば踏みつぶすし、まみこのママが丹精込めて作った花壇は、花が咲いた途端にめちゃめちゃに荒らされてしまった。同級生のたくや君は、誕生日に買ってもらったばかりの、大事に乗っている自転車を倒されて傷になったと怒っていた。

誰かが笑っていれば「くだらない」といってバカにして、ちょっとしたトラブルが起こればすっとんできて楽しそうにしている。

本当に、嫌なやつ。それでも、街の大人たちは、イヤさまにやり返したり、意地悪なことをしてはいけないといつもいうのだ。

まみこのおばあちゃんは、そんなイヤさまに、よくものをあげる。

暑い日に「喉が渇いただろう」なんて、冷えた麦茶を飲ませたり、おいしいと評判のおまんじゅうを分けてあげたり。それでもイヤさまは、「まずい麦茶だね」「まんじゅうなんて貧乏くさい」なんて言うんだ。それでもおばあちゃんは「そうかい」とニコニコしているので、よけい腹が立つ。

 

「あんな嫌なやつに、なんでいろいろあげたりするの」

まみこがそういうと、おばあちゃんはにこにこ笑ったまま、「神さまは大事にしないとね」と返した。

「神さまなんかじゃないよ! 神さまだったとしても、悪い神さまでしょ」

「そんなことないさ。イヤさまは、とっても尊いんだよ」

「ええー!」

まみこが驚いてそういうと、おばあちゃんは、ちょっと考えるそぶりをして、話をつづけた。

「人は生まれてくる前にね、生きてみたい、って願って生まれてくるんだよ。

 生きるっていうのは、いろんな経験をするってこと。

 中でも特に、誰かを許すって経験をしたくて生まれてくるんだ。

 誰かを許すには、なにが必要だと思う?」

聞かれて、まみこは考えた。

「優しい気持ち? えっと……お金持ちだったら、壊れてもまた買えるから許してあげてもいいかな……相手がちゃんと謝ってくれたら、許せるかも」

まみこは、お友だちとけんかをして、ヒートアップしてつい言いすぎて、次の日にお互いに謝り合って仲直りをしてことを思い出した。「前髪が変」って言われたことは、今では笑い話だ。

「そういうのも必要だけどね、そもそも、嫌なことをする人がいないといけないね」

「ああ……」

「人っていうのはね、相手に許す体験をさせてあげるために、お互いに失敗したり、心にもないことをつい言ってしまったりして相手を傷つけてしまう。傷つけられた方が苦しいのは当然だけど、間違えてしまった方も悩む。それもまた経験なんだけどね。でも、だれでも、嫌な人にはなりたくない。なんでもできる、格好いい人になりたい。影で嫌なやつだなんて噂をされたくはない。そうだろう?」

「うん」

「だれかが、嫌われる役をやってくれたら、許す経験ができるのに、って思わない?」

「え、それが、イヤさまってこと?」

おばあちゃんはにこにこしているだけだった。

 

通りを歩いていると、大きな声が聞こえてきた。

同級生のたくや君と仲良しの子たちが、イヤさまに石やら棒切れやらを投げつけて怒鳴っていたのだ。自転車を倒されたこと、まだ許せていないらしい。

イヤさまは、バカなガキどもだ、ろくな大人にならない、なんてことを怒鳴り返しながら、丸い背中を一層丸めて、手で頭をかばいながら足早に歩いていた。

胸がぎゅってするような、嫌な光景だ。

 

許す体験って、なんで大事なのだろう。

誰も嫌なことが起きなければいいのに。

イヤさまは、どうしてあんな役割に生まれてしまったのだろう。

まみこにはまだわからない。

 

まみこの住む街には、「イヤさま」と呼ばれているモノがいる。

あなたのそばにも、「イヤさま」はいますか?