志位和夫氏の「赤旗」の新春インタビューを取り上げるシリーズだが、ようやく国際情勢論に入っていく。先日まで開かれていた共産党の第四回中央委員会総会では、この議長とはいえ個人のインタビューが党の決定と同じ位置づけをもつとされたので、私が取り上げる重要性も増していると言えるだろう。

 

 インタビューのなかで国際情勢論は約半分を占める。さすが国際問題の理論家らしい意欲にあふれている。しかし、その内容は一言で言えば、以下述べていくように国際情勢の観念論の見本のようなものだ。

 

 冒頭の見出しで、「ブロック対立、軍事対軍事のエスカレート──この先に決して平和は訪れない」とあって、これ自体は当然の定理のようなことをいっているに過ぎない。誰も反対しないことだ。

 

 問題は、現時点、現局面でその対立の構造をどう捉えるかにある。志位氏はまず、「アメリカが、ユーラシアの東と西で、軍事同盟強化を加速させています」という認識に立つ。その上で、インタビュアーの編集長に「ロシアや中国の動きもあります」と促されてようやく、「ロシアがウクライナ侵略を続ける」こと、「中国が力での対抗を強化する」と指摘している。要するに、アメリカが諸悪の根源であり、ロシアや中国は、それに「対抗」しているという捉え方なのだ。

 

 共産党の旧61年綱領は、「アメリカ=諸悪の根源」論をとり、社会主義は平和勢力だと規定していたから、現実にソ連などが侵略すると綱領との関係で苦労することになる。私の体験では79年12月末に開始されたアフガニスタン侵略はその最たるものだった。私は80年4月から民青同盟の国際部長だったけれど、国際会議などでは当然、ソ連を批判するわけで、ソ連とソ連派の国々とはきびしい論争をすることになる。

 

 一方、ソ連批判の国際世論、国内世論がかつてない高まりを見せるなかで、81年、アメリカではレーガン政権が成立し、大軍拡路線を進むことになり、日本では同年、中曽根氏が首相となり「不沈空母」路線をひた走る。まさに「ブロック対立、軍事対軍事のエスカレート」である。この両者の関係をどう捉えるかという問題があり、私たちが国際会議に出るにあたっての当時の宮本議長の指導は、「ソ連を批判しつつも、悪循環の『起動力』(党国際部と協議してこれを英語でleading powerと表現することになった)はアメリカだと発言してこい」というものだった。

 

 61年綱領路線のもとではそういう選択が最大限のものだったと感じる。しかし、目の前で侵略しているのはソ連であり、それは現実には通用しなかった。80年6月に行われた衆参同時選挙では、自民党は10年ぶりに「安定過半数」を獲得し、野党は後退共産党も衆議院選挙では12議席減の29議席、参議院選挙で4議席減の7議席となった(小選挙区制以前のこと)。

 

 アメリカが諸悪の根源で、ロシアや中国はそれに「対抗」しているという志位氏の認識は、いま紹介した44年前と同じである。共産党が選挙で後退し続けているのも同じである。

 

 共産党は、社会主義を平和勢力とする見方をはじめ、世界認識を2004年の新綱領で大きく変えたはずなのだ。だから、目の前の現実に合わせて、現在の局面を44年前とは違って描くこともできたはずだ。ロシアの側が侵略し、中国の側が東南アジアで挑発をくり返し、台湾への武力行使を公言して演習もくり返しており、それに対抗しているのがアメリカや日本の側だという見方である。だが、対応の仕方がまずく、軍事的対応を優先して外交的対応が弱いと指摘することである。そういう現実にそった選択も可能なのに、44年前の失敗をくり返している。選挙で負けることが分かっていて、原理に固執している。観念論の極みと言えよう。