オーストリア共産党(KPÖ)の規約(画像)は長い。ワードに落として見ると単語数で7000なのだが、日本共産党の規約は文字数で9500字弱だから、段違いだ。ワードのページ数を単純比較すると、4倍もある。

 

 これだけの長さのものを読むのは大変だろうと思いつつ、同時に、いいこともある。詳細な規定があるので、日本共産党のように何でも党中央が独占的に解釈できる口実が減るからである。

 

 例えば、党規約違反などで党員同士とか党員と機関がもめた場合、規約のかなり後ろに規定されているのだが、「仲裁委員会」が乗り出すことになっている。その仲裁委員会は「党大会の直接無記名投票で選出される」もので、「連邦執行委員会のいかなるメンバーもそれに所属することはできない」とされている。日本でいえば、党中央委員会のメンバーは仲裁委員会に入れないということである。こうやって、機関が党員に優越する仕組みを排除しようと努力しているみたいである。党内のパワハラを解決するにも、こんな委員会は必要だろう。

 

 党員と機関のこのような関係の原則は、規約前文で規定されている。「KPÖの最も重要な資源は、KPÖの枠組みの中で政治を行おうとする活動家たちの献身」であり、「執行機関の最も重要な任務は、これらの活動が最適に展開できるような枠組みを設計すること」とされている。党員が主体であり、機関はそれを援助するという構図なわけだ。まあ、何でもこのように理想的が貫かれるとは思わないけれど。

 

 さて、こんな長いものを読む能力はないので(短くてもないが)、まず「民主集中制」を採用しているかどうかを調べたいと思って、この単語を入れて検索してみたが、一つも出てこない。当然だろうね。いまや民主集中制を堅持してい共産党は、中国や北朝鮮など政権党を除くと日本くらいだから。

 

 もちろん、同じ民主集中制という用語を使っていても、問題になるのはその中身なのだけれど。日本共産党の現行規約にある民主集中制の5原則程度のことなら、小学校のクラス運営のやり方とあまり変わらず、私だって当然だという立場である。問題は、分派とは何かということも含め、あらゆる問題について党中央に独占的解釈権があることで、党中央はそれが「民主集中制」だと思い込んでいることだ。

 

 ということで、オーストリアにしても、大事なのは実際にどう運用されているかである。そこで「党員の権利と義務」の項を見てみた。冒頭で「KPÖ のすべてのメンバーは、党内での役割に関係なく、同じ権利と義務、特に投票し立候補する権利を有する」とある。すごいね。

 

 党員が異論をもった場合のことに私の問題意識が向くのは当然である。こんな規定があった。

 

「KPÖは、自由かつ民主的に政策を議論し決定する、さまざまな傾向をもつマルクス主義政党である。意見の多様性と開かれた議論を重視し、アプローチや視点の多様性、党内批判や少数意見の完全な自由を尊重する。」

 

 この議論を通じて「コンセンサスを求める」という。ただし、「合意に達しない場合は多数決による」とある。当然であろう。問題は、多数決で決まった場合、異論を外に出せるかである。こんな規定があった(かなり自分寄りの訳である)。

 

「党のすべての決定、機関、党員を批判し、その見解を公にしたり、党の刊行物で表明することができる。多数決に対する批判は、その実施を妨げてはならない。」

 

 出せるんだね。あるいは、「党員の見解が党の多数決と矛盾する場合、公式声明の中で、その意見は党全体の立場を代表していないことを表明することが義務付けられる」となっているのも重要である。これは党員個人の見解をおおやけにできるが、その際、党の見解はこうであって自分の見解は党とは異なると明確にしなければならないということだろう。日本共産党の場合、そういうやり方は規約違反だとされてきた。最近では、党大会後も異論が噴出しているからか、党内で出せる異論も党大会の時期に限定するという指導もされているみたいで、オーストリア共産党とはどんどん離れていっているように見える。

 

 実際にどう運用されているかは、ドイツ語に通じた人が、現地の党活動を知り抜いた上で解説する必要があろう。吉本記者には、是非、それに挑戦してほしい。現在の党中央のもとでは記事にはできないだろうけれど、党内では「研究レポート」みたいなものを回覧するとかしてみたらどうだろうか。それが党の発展につながると思うので。