●敵の暴力に対して共産党はどう対応しようとしたか

 

 この見地に立つと、国会で多数を握って政府を樹立したからといって、権力をもつアメリカなどが黙っているはずはないとする考えが生まれます。またアメリカの意向に沿う政府機関(自衛隊や警察)が襲いかかってくる可能性も排除できないことになります。とりわけ自衛隊は対米従属の軍隊であって、権力を失うことを恐れるアメリカの意向通りに動くだろうと、共産党は考えていました。実際、防衛庁(当時)付属の防衛研究所の研究員が、共産党が政権に就くような場合にはクーデターを起こすという論文を公表したこともありました。南米のチリで選挙を通じて平和的に成立したにも関わらず、ピノチェト率いる軍がクーデターを起こしてアジェンデ政権を崩壊に導いたことも、共産党の警戒心を高めました。

 

 それに対してどうするか。共産党が政権についたあと、アメリカが武力で襲いかかってくれば、それは日本が侵略されるということです。その場合、対米従属の自衛隊には頼れないので、憲法を改正して独自の軍隊を持つことが想定されていました。共産党は綱領制定の七年後(六八年)、「日本共産党の安全保障政策」を発表し、いわゆる「中立自衛」政策を確立するのですが、そこにはこう書かれています。

 

「帝国主義がなお存続する以上、独立して、平和、中立化の政策をとる日本が、アメリカを先頭とする帝国主義陣営から侵略をうける危険は、依然としてのこっている。

 

 この点からいっても、独立した日本が、自衛の問題を無視するわけにはいかないことは明白である。……将来、日本が、独立、民主、平和、中立の道をすすみ、さらに社会主義日本に前進する過程で、……必要な自衛措置をとる問題についても、国民の総意にもとづいて、新しい内外情勢に即した憲法上のあつかいをきめることになるであろう。」

 

 一方、正当に樹立された政府に対して暴力で襲いかかってくるのが、国内のあれこれの勢力の場合もあります。その時は、すでに紹介したように「秩序維持のために必要な合法的措置をとる」わけです。これは、すでに政権の座にあるのですから、警察力などを使って対応することが想定されています。

 

 意外に思われるかもしれませんが、じつは公安調査庁もこれは当然だという立場です。不破哲三氏がかつて衆議院予算委員会で追及した際、石山陽公安調査庁長官(当時)は次のように答えています。

 

「政権確立した後に不穏分子が反乱的な行動に出て、これを鎮圧するというのは、たとえどなたの政権であろうとも当然に行われるべき治安維持活動でございます。」(一九八九年二月一八日)

 

 問題はその先にあります。(続)