徴用工問題が政治の焦点になってきたので、この問題って、慰安婦と同様、ずっと問題になってきたと思っている人が少なくない。韓国は次から次へと要求をエスカレートすると怒っている人もいる。しかし、韓国政府が日本に対して賠償が必要だと主張しつづけてきたのは、慰安婦、韓国人被爆者、サハリン残留者の三つの問題だけであった。

 

 なぜこれだけかというと、65年の請求権協定というのは財産問題を解決したものであって、この三つについては財産問題ではなく人道上の問題であって、請求権協定の枠外にあるという主張であった。韓国政府だって、請求権協定を基本におかざるを得ず、慰安婦問題等は例外的なものとして扱っていたのである(ここから、慰安婦問題は徴用工などの問題と異なり、日韓の交渉過程で議題とならなかったなどの主張が出てくる)。

 

 これは逆に言えば、徴用工をはじめとする他の問題は、すでに請求権協定で解決済みということを意味していたのである。だから、昨日紹介した判決で、すでに徴用工たちに対しては未払い賃金などの支払いは行われていることが書かれているが、そこは争えなかったのである。個人に対して支払いが行われているのだから、個人の請求権はまだ残っているなどの論理は(日本の市民運動の一部ではいまだに使われているが)、この裁判では顔を見せてはいない。

 

 その結果、裁判を起こすに当たって徴用工たちは、新たな論拠を探し求めることになる。そして、最高裁の判決も、その論拠を支持した。それが、徴用工たちが求める賠償請求は、請求権協定で解決されたものとはまったく性格の異なるものだという論理だった。何が異なるかというと、日本の植民地支配は違法だったのだから、それと直結した日本企業の反人道的な行為には賠償請求権が発生するというものであった。以下、判決の該当部分である。

 

 「原告らが主張する被告に対する損害賠償請求権は、請求権協定の対象に含まれるとはいえない。その理由は以下の通りである。

 (1)まず、本件で問題となる原告らの損害賠償請求権は当時の日本政府の韓半島に対する不法な植民支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権であるという点を明確にしておかなければならない。原告らは被告に対して未払い賃金や補償金を請求しているのではなく、上記のような慰謝料を請求しているのである」

 

 「日本の植民地支配は違法だった」という前提で、この判決は成り立っている。だから、それをどう捉えるかの議論抜きに、この問題が解決に至ることはない。そこで、この問題の解明が不可欠となる。(続)