別の見方も可能だ。中国共産党が台湾に対して「武力の行使」という国家間でしか通用しない概念を使うということは、中国と台湾の関係は、事実上は国家間の関係になっているということである。中国共産党もそれを認めざるを得ないような現実が存在しているということである。

 

 それならば、中国共産党に対しては、国際法上の「武力の行使」概念を守れと要求するしかない。繰り返しになることもあるが、こういうことだ。

 

 国連憲章は武力の行使を包括的に禁止しているが、2つの例外を認めた。1つは、国連として武力を行使する場合。もう1つは、国連が認めるわけではないが、各国が自衛権を行使する場合である。

 

 中国による台湾への武力行使は、前者ではあり得ないから、あり得るとしたら自衛権の行使だけである。それには国連憲章で厳格な条件が課せられている。そのなかでも最も大事なのが、「武力攻撃が発生した場合」にだけ自衛権は行使できるということだ。

 

 一見、不釣り合いに見えることが理解できるだろうか。相手が「武力行使」してきたら、こちらも「武力行使」して自衛できるというのではない。相手から「武力攻撃」があったら「武力行使」していいという規定である。

 

 「武力行使」(use of force)というのは、幅の広い概念である。国連が創設されて間もない頃は、この概念は経済制裁なども含むという議論が国連総会でもやられている。でも、国連憲章は経済制裁も禁止しているとなると、経済制裁をされたことを口実に「こちらもuse of forceするんだとして軍隊が動くことになりかねない。

 

 だから、自衛権を行使できるのは、「武力攻撃(armed attack)」があった場合に限るとして、軍隊による攻撃があったときに限定したのである。「挑発」などという、よりあいまいな概念で武力行使をするなど、まったくの論外だ。

 

 ということで、中台関係に則して言うと、中国が「武力の行使」をできるのは、台湾から中国本土に対する「武力攻撃(armed attack)」があった場合だけである。中国が「武力の行使」で脅そうとするなら、中国にはそのことを強く求めなければならない。ましてや、台湾の独立勢力が「挑発」してきたなどは、武力の行使を許すいかなる正当性にもならない。そんなあいまいな概念が通用しないよう、「武力攻撃」を条件にしたのだから、台湾の挑発が問題なのだという議論が成り立つ余地はひとかけらもない。そのことは強く述べて、次回から、「中国共産党第20会大会習近平報告を読む」を連載したい。(了)