さて、中国の台湾に関する基本政策をあらわした資料を紹介してきたが、その最後が習近平の演説である(先日の共産党大会での報告が最新だが内容的に新しいものはない)。「台湾同胞に告げる書」の40周年に行ったもの(2019年1月2日)。

 

 40周年を記念して行った演説だから、当然、40年前と比べてどうなのか、ということに目が向く。そして、似ているようではあるが、かなり違いがあることも分かる。

 

 一つは、「一国二制度」という言葉は、繰り返されてはいる。しかし、「台湾同胞に告げる書」を具体化した葉剣英演説が、台湾に与えられる「高度の自治」を「社会・経済制度」における独自の制度としていたのに対して(政治制度では独自のものはダメということは変わらない。香港と同じになるということだ)、習近平演説はこうなっている。

 

 「平和統一後は、国家の主権、安全保障、発展の利益の確保を前提に、台湾同胞の社会制度および生活様式などは十分に尊重され」

 

 尊重される制度から「経済制度」という言葉はなくなり、替わって「生活様式」の尊重ということになった。人々の伝統とも密接にかかわる「生活様式」が変わるなんてあり得ないことで、そんなものを尊重すると言われても、何を言っているのかということだろう。「経済制度」が尊重されないということになったら、台湾得意の半導体産業は本土に召し上げられてしまうかもしれないね。

 

 もう一つは、「告げる書」でも葉剣英演説でも、武力を行使するという表現はどこにもでてこなかった。しかし、習近平演説は、そこから40年が経って、それを堂々と強調したところに大きな特徴がある。

 

「決してさまざまな形の「台湾独立」の分裂活動のためにいかなる空間も残すことがあってはならない。」

「われわれは武力の使用を放棄することを約束せず、一切の必要な措置を講じる選択肢を残しているが、その対象としているのは外部勢力の干渉とごく少数の「台湾独立」分裂分子およびその分裂活動であり、決して台湾同胞を対象としているのではない。」

 

 さらに、葉剣英演説には、台湾が独自の軍隊を持てるという言葉があったが、習近平演説にはそれは欠片も出てこない。軍隊というのは国家の象徴のようなものだし、台湾の軍事力の発展を見ると、こんなものを台湾に残していおいては大変なことになるということなのかもしれない。

 

 いずれにせよ、結局、自治とか二制度とか言っても、香港のような未来が待っているということだ。台湾に対してこんな迫り方をするものだから、台湾の世論はどんどん中国から離れていくわけである。

 

 ところで、習近平演説には、92年コンセンサスのことが出てくる。

 

「われわれは、「九二共識」(92年コンセンサス)堅持、「台独」反対という共通の政治的基礎の上で、両岸の各政党、各界が代表者を推挙して、両岸関係と民族の将来について幅広く踏み込んだ民主的話し合いを進め」

 

 ということで、先日掲載した資料の解説は、統一の方式をめぐる問題に移っていく。けれども、それを連載ということにするとインパクトが薄まるので、独自のタイトルをつけるかもしれない。本日も、台湾有事問題で、二時間ほど講義してきます。(続)