核不拡散条約(NPT)の再検討会議、最終文書を採択できなかったようだ。岸田さん、日本の首相として初めて会議に参加し、核保有国と非核国の「橋渡し」をするのだと意気込んでいたが、なすすべもなく終わった。

 

 この四半世紀、核兵器をめぐる国際政治が対話不能なほどに分裂していることが、この背景には存在する。従来型の政治思考にもとづく「橋渡し」は不可能になっていると思う。

 

 一方では、核保有国の根強い抵抗。2000年のNPT再検討会議で「核廃絶の明確な約束」を行い、2010年にはそのための行動計画にまで合意したのに、ただの約束止まり。中国は核戦力を増強し、アメリカは以前は賛成していた「中東非核地帯」創設に反対するようになり、ロシアは核兵器の使用でウクライナを威嚇している。

 

 他方では、もちろん反核世論の成長。自衛のためでも核使用が合法とは言いきれないとした1996年の国際司法裁判所の勧告的意見があり、核保有国がNPT再検討会議での約束を反故にするのを見て、NPTとは別の選択肢が必要だと考え、2017年の核兵器禁止条約へと続いていく流れである。

 

 ここまで両者が分裂しているのに、NPTの枠内でしか思考せず、行動もしない国が「橋渡し」できるわけがない。何らかの「橋渡し」ができるとすると、NPTと核兵器禁止条約との間で等距離とる国とまでは言わないが、片方を否定するような立場からは抜け出すことが不可欠であろう。

 

 それは結局、核抑止を肯定するNPTと、それを否定する核兵器禁止条約の間で、どんな立場をとるのかということにつながっていく。私は、この日本が、日米同盟は堅持するが核抑止には頼らない、そんな立場に立つことであると考える。

 

 NATO諸国にはない考え方だが、それをできるとすると被爆国の日本しかないだろう。どこかで本格的な議論を開始しないとね。