玉城デニー知事が設置した「米軍基地問題に関する万国津梁会議」(柳澤協二委員長)だが、2020年3月に第1回目の提言を公表した。その提言を収録して刊行したのが、この本だ。『辺野古に替わる豊かな選択肢』というタイトル。サブタイトルは、「「米軍基地問題に関する万国津梁会議の」提言を読む」とある。

 

 本の帯の文章が、立場をあらわしている。「在日米軍も日本政府も沖縄も、この案なら合意可能だ!」

 

 そう、在日米軍と日本政府と沖縄を結びつける「共通の言葉」を探し出そうというのが、この提言の趣旨なのである。きっかけは、万国津梁会議の副委員長を務めている野添文彬さんが訪米した際、アメリカの研究者から聞いた言葉だったという。現在、海兵隊をはじめとして米軍が兵力構成を変えるような大きな転換をしようとしているので、それにあわせて声をあげれば影響を与えることができるかも知れないということだったそうだ。アメリカ政府は「沖縄の心」のようなものには関心を示さないが、辺野古に反対するにしても、中国にどう対応するかという戦略の一環としてなら耳を傾けてくれるのではとも。

 

 実際、アメリカは大きく戦略を変えつつある。中国がミサイル能力を高め、日本やグアムなどの米軍基地をいっきょに撃破することができるようになったからだ。だから、それを避けるため、軍をどうやって後ろに退けるかを考えたのだが、それだけでは中国にやられてしまう。そこで、中国に破壊される巨大な固定化した基地に頼るのではなく、小規模の部隊を沖縄、本土、その他、中国の腹の中に飛び込めるような場所に配置し、機動的に柔軟に戦えるようにしようという戦略である。

 

 海兵隊などはこの戦略に沿って沖縄での訓練も強めているが、同時に本土での訓練も強化されている。自衛隊が南西諸島でミサイル基地を建設しているのもその一環であろう。

 

 万国津梁会議の提言は、そこを捉えて、巨大な固定化した基地に頼らないというなら、辺野古は不要ではないかと打ち出したわけである。ただそれは、小規模の部隊を本土などで訓練することなどが前提になっている。それがダメだというなら、アメリカは、じゃあやはり沖縄だということになるからだ。

 

 コロナ禍で具体化されていないが、万国津梁会議は、この提言を携えてアメリカに行き、向こうの安保関係者と討論会を行うことなどを予定している。もしそれが実現し、辺野古はあきらめるが本土の人々は覚悟してよねという話になったとき、本土は受け入れることができるのか。沖縄のことを最優先して判断できるのか、やっぱり沖縄にお願いするということになるのか。それが問われる時代が来るかもしれない。(続)