日本共産党に関する真面目な研究書が、まさかこれほど評判となり、売れに売れる時代が来るなんて思いもしなかった。中北浩爾さんの『日本共産党』(中公新書)だ。もう3万部以上も売れていて、アマゾンでは現時点(13日正午)で品切れ状態。時代は変わろうとしているのだろうか。

 

 昨日の産経新聞で、佐藤優さんが書評を書いているが、そのタイトルが「共産党を震撼させる一冊」。こんなタイトルなら手に取ってくれるだろうという、編集部の期待が込まれているのだろうが、産経新聞の読者を震撼させるようなものではない。

 

 だって、この本は、共産党をめぐる歴史の事実をたんねんに追った本だからだ。佐藤さんが引用している戦前史のハウスキーパー問題だって、小林多喜二の『党生活者』にでてくるものであるから、党が隠してきたというものではなく、産経新聞読者には旧知に属する問題だろう。

 

 私が若い頃だって、『党生活者』を読んだ仲間が衝撃を受け、党の会議でさんざん議論したものだ。ただ、最近共産党に近づいたという人は、『党生活者』などを読む機会もあまりないだろうし、共産党の公式の党史には出てこないので(少なくともハウスキーパーを正式の方針とした文書などは存在していないからだろうけれど)、多少の動揺は生まれるかもしれない。それだって、何も包み隠さずに議論すればいいだけのことだろう。

 

 ということも含め、100年にわたる共産党の歴史の事実を追いながら、その意味を肯定的なものも否定的なものも含め、ていねいに論じている本である。そのうち最近の半分近く(あと2年で50年になる)を共産党のなかにいた私にとっては、自分自身の活動と重ねあわせて読むという読み方しかできない。

 

 世界中で共産党が終焉を迎えたり、党名変更も含めて路線を転換したなかで、日本だけがそれなりに影響力を持った党として存続している。それは宮本顕治さんが確立した路線の功績だという著者の指摘はその通りである。

 

 1970年代以降、いわゆるユーロコミュニズムの潮流が生まれ、自由と民主主義を尊重する社会主義の流れが強まったが、日本共産党が歩んだ道は、そのうちの一つというだけにとどまらなかった。私も青年分野で国際会議に出ることがあったが、ソ連共産党や中国共産党との関係にしても、ヨーロッパの党はおそるおそるという感じがぬぐいきれなかったけれども、日本は断固として立ち向かったという実感がある。

 

 さらに大事なことは、ソ連や中国と現場でやりあうということだけではなく、そういう党であることを日本の共産党員の誇りにまで高めた点が、他にはないことだ。宮本さんは、ソ連や中国は社会主義の原則から外れていて、それと戦う日本の共産党の路線こそが社会主義者がとるべき道筋だという確信を党内に培っていった。

 

 だから、ソ連が崩壊するという事態に直面しても、日本だけは共産党がなんとか持ちこたえたのだと思う。(続)