二、占領の事実上の継続としての米軍駐留

 

 5・15メモのもう一つの大事な点は、沖縄が、アメリカヘの日本の事実上の従属の象徴的な存在になっていることが、明瞭にあらわれていることです。いくつかの角度からみてみましょう。

 

<二重三重に日本の法体系を無視したもの>

 

 第一。メモによれば、いくつかの基地は、米軍統治下と同様に使えるとされています。北部訓練場、キャンプ,・シュワブ、キャンプ・ハンセン、津堅島訓練揚の四つの基地については、「合衆国政府は返還後も必要があれば、変換以前の状態で使用する」とされているのです。占領支配の継続にほかなりません。このほかにも、いくつかの基地は、米側の要求で使用条件の変更ができると定められています。

 

 第二。一咋年の少女暴行事件以来、日米地位協定の治外法権的な内容が問題になっていますが、沖縄の米軍については、この屈辱的な地位協定すら一部は免除していることです。すなわち、地位協定第18条では、米軍が公務中におかした損害の補償について、米軍に全面的な責任があっても、その4分の1を日本が払うという、信じられない規定をおいています。ところが、沖縄の24の基地では、米軍は「地位協定第18条の規定に基づく賠償責任を負わない」と明記されているのです。

 

 第三。基地の提供に関する通例の手続きも、沖縄の米軍については適用されていないことも判明しました。たとえば、軍事訓練空域は、民間航空機の運航に重大な影響を与えることから一般に告示することが義務づけられています。ところが、5・15メモにより、告示されていない軍事空域が5つもあることがわかったのです。

 

 第四。5・15メモに基地の使用条件が明記されていない場合、実際には米軍の自由使用が保障されていると思われることです。たとえば、普天間基地をみると、5・15メモには使用条件といえるものは記載されていません。ところが、普天間基地では、深刻な被害をあたえる演習が日常茶飯事におこなわれています。この事実は、使用条件を明記しないことにより、何をしても違反とならないようにしていると推測されるのです。嘉手納弾薬庫の貯蔵条件が記載されていないことも、核兵器の持ち込みを可能にする意図からでているというのが、真実ではないでしょうか。

 

 第五。メモで合意されていることでも、米軍は平気でふみにじっていることです。鳥島射爆揚では廃弾処理が義務づけられているのに、実際にはおこなわれていないことが、最近の劣化ウラン弾問題で暴露されました。ギンバル演習場では週に一回の住民の立ち入りが認められていますが、これまでまったく住民には知らされていません。

 

<米研究者も指摘する日本の植民地状態>

 

 このように、二重三重に日本の国内法を無視することを米軍に許し、返還前と同じく統治者として君臨できるようにしたのが、5・15メモだということができます。まさに、沖縄と日本を植民地化するような合意なのです。アメリカで日本問題の専門家として知られるチャルマーズ・ジョンソン(日本政策研究所所長)は、最近の「琉球新報」97年3月16日付)に、「米軍が沖縄に居すわる理由」と題する投稿をおこなっています。ジョンソンはここで、在沖米軍が日本防衛のために駐留しているのではないとしたうえで、つぎのようにのべています。

 

 「それでは、なぜ米軍は沖縄に駐留しているのか。植民地主義者として、つまり、第二次大戦の結果、東アジアに出現したアメリカ帝国の代表として、居座っているとしか言いようがない。ちょうど、1898年のマニラ湾の戦いを経て植民地前哨・フィリピンを手にいれたように、アメリカは1945年の沖縄戦を経て沖縄を獲得した。過去50年にわたって、沖縄は、1910年から45年の朝鮮と似た地位を強要されてきたのだ」

 

 ジョンソンが強調しているように、戦後の日本における米軍駐留の意味を理解するカギは、それが戦争での軍事占領の事実上の継続としておこなわれていることです。ここに、第二次大戦の戦勝国同士の軍事同盟としてスタートした北大西洋条約機構(NATO)諸国とは根本的にことなる、外国軍隊駐留の日本的な特徴があります。発達した資本主義国が外国に従属した最初の例である第一次大戦後のドイツでも、連合国は戦争中に奪い取ったラインラントに、講和条約の締結後10年以上にわたって駐留し、ドイツにたいして支配者としてふるまったのでした。

 

 ジョンソンはつづいて、戦前の朝鮮と現在の沖縄の共通点を、4つにわたって列挙しています。そのうえで、「朝鮮と沖縄には違いもある」として、「朝鮮は50年前に植民地支配から解放された。しかし、沖縄は、20世紀が終わろうとする今も、依然として、半植民地状態に置かれている」ことを強調しています。

 

 5・15メモは、沖縄の基地に執着する米軍の意図が、アジア・太平洋への軍事介入路線と日本にたいする支配の継続にあることを、さらけだしています。このことは、日本とアジアの平和にとっても、日本の真の独立にとっても、沖縄の米軍基地の縮小・撤去が決定的な意味をもっていることを、国民のまえにあきらかにしています。21世紀にこの課題を残さないためにも、当面する米軍用地特別措置法の改悪阻止をかかげ、全力をあげることが求められています。(了)