2015年の明治期産業革命遺産の登録に際して、ユネスコではかられた妥協。その内容は、安倍さんのお仲間にとっては、完全な裏切り行為に属するものだ。これが第2の弱腰である。

 

 どんな妥協がはかられたかは、識っている人も多いだろう。そういう人にはわずらわしいかもしれないが、そうでない人もいるので書いておく。日本政府が、以下のような発言をすることで(朝鮮人労働者の関連部分のみ引用、全文は画像)、韓国も合意し、ユネスコも登録を承認することになったのだ。

 

 「日本政府は,技術的・専門的見地から導き出されたイコモス勧告を尊重する。特に,『説明戦略』の策定に際しては,『各サイトの歴史全体について理解できる戦略とすること』との勧告に対し,真摯に対応する。

 より具体的には,日本は,1940年代にいくつかのサイトにおいて,その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと,また,第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である。

 日本は,インフォメーションセンターの設置など,犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置を説明戦略に盛り込む所存である。」

 

 3つの文章から成り立っているが、1つ目に「各サイトの歴史全体について理解できる戦略とする」とあるのは、明治期だけに限るというのはダメだよということだ。「歴史全体」を理解できるようにせよということだ。1910年までに限る安倍戦略は否定されたのである。

 

 そして2つ目の文章。朝鮮人労働者が「その意思に反して連れて来られ,厳しい環境の下で働かされた」と日本政府が説明している。これは、複雑になるので全部を解説しないが、「強制労働」を主張する韓国と、その言葉を使いたくない日本の、まさに「妥協」である。

 

 慰安婦問題をめぐる河野談話でも、慰安婦の募集、移送、管理等について「強制」という言葉を使わず、「意思に反して行われた」という言葉で表現されているが、それと同じ表現だ。あれほど河野談話を毛嫌いする安倍さんが、河野談話と同じ表現で妥協したのである。右翼が言うように河野談話が諸悪の根源なら(私はそう思わないが)、この安倍合意も同じく諸悪の根源である(私はそう思わないが)。

 

 そして、3つ目の「インフォメーションセンターの設置」だ。これが現在、東京新宿区につくられた「産業遺産情報センター」である。

 

 いずれにせよ、安倍さんの妥協のせいで、現在、同じことがくり返されることになった。河野談話水準の妥協をすることで、今回、同じように日本側が妥協することについて韓国側に期待を持たせることになった(実際は前回水準を超えるものだがそれは後述)。

 

 私は、ユネスコの合意を支持する立場である。しかし今回、江戸時代に限定できなかったり、強制連行が再び問題になるのは、安倍政権の妥協が生んだ問題であることは(私は必要な妥協だったと考えるが)、間違いのないことだ。(続)