結局、何が言いたいかというと、現行地位協定のもとでも米軍に対して国内法(この場合は検疫法)を適用するという立場に立ち、それを貫くべきだということだ。

 

 だって、国会で地位協定が審議されたとき、政府は、地位協定で米軍の特権が明記されていない場合、日本の国内法が適用されると明言していた。新安保条約ともども正常なかたちでの採決とはならなかったとはいえ、そういう国会答弁の上に地位協定は批准されたのである。

 

 実際にその適用が問題になった70年代初頭、外務省が態度を変え、地位協定で特権が明記されていない場合も、やはり特権は保障されると、答弁を180度変えた。しかし、その場合も、日本の国内法の規定を米軍が「実体的に守る」ことが前提だったわけだ。また、地位協定に検疫にかかわる特権が明記されていないのは、共通の認識だったのだ。

 

 ところが、この連載の2回目で紹介したように、朝日新聞によると、外務省の地位協定室は、協定の「管理に関する法令」に検疫法が含まれると、またもや解釈を大きく変えたようだ。これって、これだけ在日米軍が検疫法を無視している実態があり、それが日本国民の健康を脅かしているということになってくると、地位協定には検疫を免除する明文の規定がないという従来の解釈では通用しないと判断したのだろう。地位協定の明文で検疫法の適用を除外しているから、地位協定を変えない限り無理なのだとして、米軍の特権を温存しようとしているわけだ。

 

 そういう時に、外務省地位協定室の現行の解釈を無批判に前提にして(朝日新聞の記事のことである)いては、コロナに関する国民の不安を解消することはできない。「地位協定は変えられないよね」と誰もが思っているのだから。だからこそ、現行地位協定のままでも日本の検疫法を守らせろ、それが地位協定を審議した国会の結論だろうと攻めていくべきだと感じる。法律や条約の解釈が曖昧な場合、何よりも国民の権利が外国軍隊の権利より優先されるように解釈されるべきだという立場をとるべきだ。

 

 そして、それを実際に実現する手段としてまらば、ドイツの地位協定(冷戦終了後に改定された補足協定)の以下の明文規定を武器にするべきだ。伝染病(日本では1999年の法改正で伝染病の文言は感染症に改められた)には国内法がどの国でも適用されるべきなのである。

 

第五四条

 「1 本項に別段の規定がない限り、人間、動物及び植物の伝染病の予防及び駆除並びに植物の外注の繁殖の予防及び駆除に関するドイツの法律と手続は、軍隊と軍属に適用される」

 
 私の本、またアマゾンで売れ出しているようなのだけれど、喜んでいいのか悲しむべきか。