いくら出発点が敗戦に伴う占領であったとしても、普通なら、時間が経つにつれて、その影響は薄まるはずなんです。ましてや70年以上が経過しているわけですから。

 

 しかし、それとは逆に、時間が経てば立つほど従属が深まるように見えるのが日米関係です。多くの研究者がそれを解明するのに悩んできたと思います。

 

 その手がかりを見つけたのが、アメリカの国防省・国務省の共同研究である「日本と琉球諸島における基地権の比較」という文書でした。これは1966年に作成されたもので、沖縄の施政権を返還することが焦点になってきて、米軍がそれまで自由に使えてきた沖縄の基地に日米地位協定が適用されることになるものだから、いままでのようにフリーハンドで使えなくなるかもしれないと心配して、日本本土と沖縄で米軍の権利にどんな違いがあるかを調べたものです。

 

 その結論が、「あまり変わらないから大丈夫」というものでした。そして、日本本土でなぜそんなに米軍に権利があるのか、その理由を研究しているのです。その結論が、「日本政府が黙ってアメリカの言うことを聞き続け、それが慣行にまでなって、いまや法律と同じ効果を持つに至った」というものでした。

 

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四、特権を固定化させる慣行の積み重ね(時間が経っても従属が深まる理由)

──事前協議条項を例に沖縄返還に際する国防省・国務省の共同研究(「日本と琉球諸島における基地権の比較」66年)から

 

1、占領の延長の旧安保条約下での「慣行」が新安保条約にも受け継がれる

 「核兵器積載の米艦船が日本の港湾に寄港する慣行は、1960年以前に確立されたものであった。合衆国の条約交渉担当者たちは、日本のトップの政府関係者たちは米艦船によってときおり核兵器が日本の領海に持ち込まれていることにうすうす気づいていながら問題の真相をつきとめようとはしないことを、強く印象づけられた。その後、ワシントンの合衆国当局者たちは、『現行の手続』には装備にかんする慣行が含まれるものと解釈し、岸首相はこの解釈を無言のうちに受け入れているものと受け止めた」

 

2、新安保条約下でも「慣行」が積み重ねられる

・戦闘作戦行動の事前協議は核密約(「討議の記録」)でも合意であり米軍も無視するつもりはなかった

・62年のラオス危機で第7艦隊を派遣した際、「ボーダーライン上の問題」と認識したが勝手に出動

・日本政府は公には「事前協議の主題ではなかった」と述べた(内々には別の意見を伝えたが)

・この時の教訓からトンキン湾事件の際、米軍は「第3国を経由するので出動ではなく移動」と伝える

 

3、「地位協定にないものは国内法適用」の60年解釈が逆転した理由もここに

「この施設・区域というのは、治外法権的な、日本の領域外的な性質をもっているのではなくて、当然日本の統治権、日本の主権のもとにある地域でございます。……ただ、アメリカ合衆国が施設・区域を使用している間は、これを使用するに当たりまして必要な措置、どういうふうな措置を米国が取ることができるかということは、これは協定に定めまして、その協定に従ったところにおいて、米側は措置を取ることができる」(60年5月11日、衆議院安保特別委員会、高橋外務省条約局長)

「(協定に)書いていないものについては、日本の法令が大体適用される」「軍隊そのものにつきましては、特別な規定はございませんけれども、軍隊の特性上、その軍隊の特性と反するような法令の適用というものは、これはやはりないと考えざるを得ません」(60年6月12日、参議院安保特別委員会、林法制局長官)

「当該外国軍隊及びその構成員等の公務執行中の行為には、派遣国と受入国との間で個別の取決めがない限り、受入国の法令は適用されません」(外務省HP「日米地位協定Q&A」

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(続)