「台湾同胞に告げる書」発表40周年記念会での習近平主席演説(19.1.2)は、その「台湾同胞に告げる書」や葉剣英演説とはかなり異質なものである。何よりも、この2つとは違い、これまで書いてきたように、武力行使を放棄しないことを堂々と宣言している。

 

 「われわれは武力の行使を放棄することを約束せず、一切の必要な措置を講じる選択肢を残しているが、その対象としているのは外部勢力の干渉とごく少数の『台湾独立』分裂分子およびその分裂活動であり、決して台湾同胞を対象としているのではない。」

 

 武力行使は「台湾同胞を対象としているのではない」、対象は「ごく少数の『台湾独立』分裂分子」と言うが、台湾で独立を支持するのは、この連載で紹介した世論調査でも明らかなように、35%を超えるのである。人口2400万人だから840万人だ。それだけの人を「分裂分子」と規定し、武力を行使するぞとおどすなんて、いくら中国が「国内問題」と強弁しても許されることではない。台湾には現状維持派だって過半数いるが、これは独立をめざせば中国が戦争をしかけてくることが分かっているから自重しているのであって、中国の威嚇がなければ独立志向に入ってくる人たちだ。

 

 1996年に台湾ではじめて総統選挙が実施され、民意を政治に反映させる仕組みが採用された。その時、中国は台湾海峡で大規模な軍事演習を行い、アメリカが空母2隻を派遣したことは記憶に新しい。中国が軍事演習をしたのは、台湾で民意が重視される政治制度がつくられると、統一にとって不利だということを自覚していたからだろう。その後、台湾で民主主義が根付けば根付くほど中国の武力行使方針は確固なものとなり、2005年の「反国家分裂法」のように武力行使を法律にまで格上げされ、そして習近平演説で総仕上げである。

 

 さらに、習近平演説は、もう1つ違うことがある。それまでは「社会経済制度は尊重する」となっていたのだが(政治制度は尊重しないのはいっしょだが)、習近平演説では、「台湾同胞の社会制度および生活様式などは十分に尊重され」と、経済制度のことが欠落しているのだ。この理由はもっと研究しないと分からない。自分たちも台湾と同じ市場経済になったから、わざわざ経済制度を尊重すると言う必要がなくなったという程度なら、あまり問題にしない。しかし現在、台湾の半導体産業が世界をリードし、アメリカもそれをどう確保するかに躍起になっているから、中国がそれを手に入れようとしている意味が込められているとしたら、かなり深刻なことである。

 

 中国関係者のかなりの人が、習近平になって中国が変わったと言う。毛沢東時代の混乱をふまえ、曲がりなりにも集団指導体制を敷き、国家主席の任期制をもうけ、建前でも民主主義を唱えていた時代は、習近平になってふっとんだ。本日の朝日新聞で、今年3月に中国が6年以内に台湾を武力解放すると発言したアメリカインド太平洋軍の司令官(当時)が出てきて、6年という根拠は、習近平が4期目をねらうことと関連いていると述べている。権力者が権力にしがみつくには戦争は絶好の手段だから、それなりに納得できる分析だったと思う。やれやれ。(続)