さて、本日から一国二制度の問題である。私に質問してこられた方は、中国と台湾のあいだの紛争の第一の原因は中国が武力解放の方針を持っていることではなく、台湾の「独立志向」にあると考えており、私がその同じ考えに立たなかった原因は、「一国二制度」の問題の検討を避けるためではないかと指摘しておられる。はしょって言えば、台湾の人々は「一つの中国」を実現すべきだという立場から、せっかく中国がふさわしいやり方として「一国二制度」を提案しているのに、なぜ受け入れないのかと思っておられるのだろう。そして私が「一国二制度」を支持しないのを疑問に感じておられる。

 

 私は、これまで書いてきたように、そもそも「一国二制度」がいいかどうか以前に、台湾の人々が「一つの中国」を台湾の人々が受け入れること自体、自明のことだと考えていない。だから、「一つの中国」を前提にして制度に詳しく論及しないのは当然だとは言っておきたい(必要なことは講演で話したつもりだが)。

 

 ただ、これもこれまで書いてきたように、「一つの中国」を約束してきたアメリカや中国は、それに縛られている。台湾も、民主化が達成されるまでの間、本土を武力で解放するという意味で「一つの中国」の立場だったので、完全にフリーというわけにはいかない。そして実際、台湾の人々の民意もかなり慎重であることは、昨日の世論調査で見た通りである。

 

 この問題では、まず私の結論から述べたほうが誤解を生まないと思う。台湾は中国が提案する中身での「一つの中国」や「一国二制度」に同意してこなかったが、私は条件付きで同意することはあり得るのではないかと考えている。

 

 その条件とは何かと言えば、「中国本土における自由と人権が、台湾と同水準になった時期には」ということである。台湾の人々が「一つの中国」に同意できないのは、まさに中国の自由と人権の状況が受け入れられないからだ。「一国二制度」になったとしても、台湾でようやく獲得した自由と人権が侵されない保障がないからだ。「一つの中国」が国際政治の上でどんな意味があったとしても、2400万人が享受している自由や人権を後退させてまで実現すべきものだとは思わない。

 

 しかし、中国の自由と人権の状況が台湾並みになるのであれば、そこはクリアーされるのではなかろうか。台湾の人々は、「そうだね、中国は一つという考え方もあるよね。でも、あなたがたの自由と人権が改善されるまでは辛抱してね」と言えばいいのである。それを中国が受け入れれば何も問題はない。これ以外に、中国共産党の意向と、台湾の民意をバランスさせる方法はないのではなかろうか。

 

 ただ、習近平の発言や動向を見ると、そんな悠長なことは許さないという怒りが伝わってくるようだ。ということで、「一国二制度」の問題を続ける。(続)