これまで書いてきたように、台湾の未来は、「一つの中国」という国際政治上の約束事にしばられる面があるが、それにしても当事者である台湾の人々の気持ちを無視することはできない。というか、本質的には「人民の自決権」という原則が優先されるのであって、それを「一つの中国」という原則とどう整合させていくのかという観点で考えるべきものだと考える。

 

 その見地から、では台湾の人々は何を考えているかを見てみると、自分の気持ちと国際政治の現実を、本当によく考えて判断していると思う。台湾の政治大学選挙研究センターというのがあって、90年代前半から毎年ずっと同じ項目で世論調査をしているのだが、それがきわめて深い。

 

 調査の項目は3種類。1つは、アイデンティティの自己認識で、自分は台湾人か、台湾人であり中国人でもあるか、中国人かを問うものだ。2つは、将来の国家選択で、独立か統一か現状維持を問うが、選択肢は6つあって、速やかに統一すべし、どちらかと言えば統一、現状維持してから決定すべし、永遠に現状維持、どちらかと言えば独立、速やかに独立、というものだ(3つ目は政党支持なので記事からは省く)。

 

 毎年同じ項目で質問しているのだから、かなり信頼性のある調査である。では、その結果はというと。

 

 一つ目では、1992年の調査では、「自分は台湾人」が17.6%と最低で、中国人が25.5%、両方が46.1%だった。それが2020年の調査では、67.0%、2.4%、27.5%になっている。とくに解説しないが、すごい変化である。

 

 二つ目の調査。6択を2つずつまとめて、「統一志向」「現状維持」「独立志向」の3つに分類した。そうすると、94年ではそれぞれ20.0%、48.3%、11.1%だったのが、2020年には5.8%、52.3%、35.1%になっている。

 

 要するに、台湾の人々は、いまやほとんど自分を「中国人」だとみなしていなし。どんどんそうなっていて、台湾人というアイデンティティを確立しつつあるということだ。

 

 それに伴って、もともと「統一志向」は少なかったのだが、いまやそういう志向は消滅しつつある。中国共産党指導部はこの結果を見て、このままでは「一つの中国」が夢物語になると考えていることだろう。

 

 同時に大事なのは「現状維持」が最大の割合を占めていることだ。台湾の人々も、本音では独立だろうが、現在の国際政治のしばりの中では、公然と独立を表明することのリスクを深く考えて判断しているということだ。

 

 それにしても、それさえ変わる可能性がある。実は、2018年の時点で、「現状維持」は57%以上であり、「統一志向」は15.5%だった。それが2年後、先ほどの52.3%、5.8%へと急激に変化したのだ。「独立志向」も20%から35.1%へと急上昇した。

 

 何が変化をもたらしたか。ちょうど2019年、習近平が台湾の人々に対して「一国二制度」を呼びかける演説を行い、そこで武力を放棄しないと明言した。そして、実際に台湾海峡での武力行動を激化させた。それに伴って、台湾の人々の意識が急速に変化したということだ。

 

 ということで、次回からは、「一国二制度」の問題に入る。(続)