いやまあ、それ以外でも問題は満載である。例えば、「自由で開かれたインド太平洋」という項がある(画像)。

 

 読まなくても、掲載されている地図だけを見れば、言いたいことは分かる。そこで名前の挙がっている国々(日米、インド、ASEAN等々)が協力し、名前の挙がっていない国(中国)を包囲することによって、この地域の平和と安定を確保しようとする構想である。わざわざ言われなくても、そう考えている人々は多いだろうし、中学生だって同じようなことを考えているかもしれない。

 

 しかし、この「自由で開かれたインド太平洋」だって、これまでも紆余曲折を経てきた。当初、日本が提唱したときは、「インド太平洋戦略」と大見得を切っていて、中国包囲の軍事戦略だということが鮮明であった。

 

 ところが、そんなやり方では他の国が付いてこない。だから、「戦略」がとれ、その後に使った「構想」もとれ、「自由で開かれたインド太平洋」になってしまったわけだ。

 

 しかも、その「自由で開かれたインド太平洋」戦略にもとづいてつくられた「東アジア地域包括的経済連携協定(RCEP)」は、「未来を見据えた世界最大の自由で公正な経済圏を完成させることを目指す」(外務省)として、中国が主要な参加国の一つなのである。しかも、「インド太平洋」という名前にもかかわらず、インドは最終的に不参加である。

 

 それにもかかわらず、『はじめての防衛白書』は、何のちゅうちょもなく、インドの名前を入れて中国の名前をはずした地図を堂々と掲げ、協力を強化すると述べている。何が何だか分からない。

 

 小学校高学年や中学生には、そんな複雑な国際政治の動きは解説すべきでないということだろうか。軍事的に中国を包囲することの必要性を理解させる範囲で、国際政治の現実を多少は脚色を加えて紹介しても構わないとでも思っているのだろうか。

 

 子どもの真実に向かう力を信じないこんなやり方は、昔の防衛省だったらとてもできなかったと思う。謙虚さに欠けている。

 

 自衛隊への国民のリスペクトが増えているので、少し増長していると感じるのは私だけではなかろう。こんなことをしていたら、自衛隊は信頼されなくなってしまう。

 

 まあでも、この『はじめての防衛白書』がでたおかげで、来年に執筆予定の『13歳からの防衛白書』を完成させる展望が見えてきた。『はじめての防衛白書』の過ちを繰り返すことなく、学習指導要領が求めるような「社会事象の多角的分析」の観点で書いていけばいいだろう。防衛省には感謝するしかない。