岸田さんには異なる政策的選択肢を提示する能力はなく(というか自民党全体になくなって)、だから二階さんの幹事長交代くらいしか新味は打ち出せなかった。だから、菅さんにとってはやることが簡単で、岸田さんに先立って幹事長交代を決めればよかったわけである。
 
 それで安心して、総裁選挙をやらずに総選挙に突入しようとしたら、菅さんでは総選挙が戦えないと考えた自民党議員が猛反発。それがこの間の事情だろう。
 
 しかし、そうやって反発した人々が、一様に、「総裁選挙で活発な政策論争をやって自民党の魅力を見せて総選挙へ」と言っている。この感覚のずれが、自民党の末期である。
 
 いったいどんな別の政策を提示できるのか。異なる政策をもつ議員と官僚をパージしてきた結果が現在ではないか。自民党のみなさんがそういう自民党をつくってきたというのに。
 
 でも、本当に、総裁(党首)選挙で活発な政策論争が行われることが、政党にとっては大事なのかもしれないね。共産党の場合だって、政策論争をやって党首を決める方式を導入すれば、国民から魅力的に映るようになる可能性がある。
 
 共産党のなかでは一番大事なのは綱領の一致である。綱領が一致していれば、政策での幅は容認されるのだ。
 
 例えば自衛隊問題。綱領の記述は以下の通りである。
 
 「自衛隊については、海外派兵立法をやめ、軍縮の措置をとる。安保条約廃棄後のアジア情勢の新しい展開を踏まえつつ、国民の合意での憲法第九条の完全実施(自衛隊の解消)に向かっての前進をはかる。」
 
 私はこの綱領規定に全面的に賛成である。自衛隊についてまずやるべきことは、その廃止ではない。海外派兵の中止と軍縮である。自衛隊廃止はその次の段階でもない。その次にようやく来るのが安保条約の廃棄なのである。そして、安保条約の廃棄でアジアの情勢が新しい展開を見せ、自衛隊を廃止してもいいと国民が合意できる時になって、やっとのやっとで自衛隊の廃止が浮上するのである。
 
 私だって、コミュニストの一員として、共産主義社会になれば暴力装置は不要になるという理論を信じてきたので、昔から、共産主義の段階では自衛隊もなくなると考えてきた。だから、綱領規定には全面的に賛成なのである。
 
 しかし、綱領は支持していても、その解釈では私と異なる人もいるだろう。そのほうが多いのはほぼ確実である。しかしそれが確実であるから、野党共闘がうまくいかないわけだ。全然違う政党、政権の議論の対象にならないとみられるのである。
 
 まあ、とは言っても、現状ではそういう議論が出てこない。だから、綱領の範囲内で自衛隊政策をどうするか、それを議論できるような党首選挙をやってもいいのではなかろうか。(続)