このパンフレットは小学校高学年からが対象で、何をどこまで書くかはおのずから制約されてくる。しかし、これではあまりに単純で、子どもに防衛問題を深く考えてもらうことにならないのではなかろうか。

 

 もしかして、これを書いた人たちは、小学校の学習指導要領などは読んでいないのではなかろうか。現在の学校教育では(小学校に限らず)、結論を分かりやすく簡単に教えることは求められていない。相反する事象なども紹介しながら、どうやって多面的に考え、問題意識を広げることが重視されているのに、『はじめての防衛白書』にはそれが欠けているように感じる。

 

 中国や北朝鮮のやっていることを率直に教えることは大事である。領海侵犯が国際法違反であることも教えなければならない。

 

 けれども、領土問題一つ取ってみても、日本側の見方とともに相手側の見方も伝える必要があるだろう。それでもなお、日本側の見方が適切なのはなぜかというところに突っ込んで行かないと、尖閣は日本の領土であることをただただ信じるという程度の思考しか身につかない。

 

 防衛一般もそうで、相手の軍拡に対して、こちらも軍拡をすることも選択肢であることは伝えるべきだ。しかし、こちらが軍拡すれば相手も軍拡することに象徴されるように、防衛問題にはいろいろなジレンマがあって、だからこそ人類は何千年も戦争をくり返してきたのであって、それらの全体像を教えなければ、思考する人間は生まれてこない。

 

 日米安保にしても同じだ。強大な相手に対して同盟を組むというのは、人類にとって何千年もやってきたことではある。だから全否定はできない。だけど、同盟になってジレンマはある。どんなに相手に尽くしても、結局は国益を理由に見捨てられるのではないかというジレンマもあれば(アフガニスタンのこと)、相手が戦争に踏み切れば日本が戦争に巻き込まれ全土が戦場になるかもしれないというジレンマ(台湾問題)もある。それらを抜きにして、信仰的に安保の正しさを説いても、やはり思考する人間は生まれない。

 

 いやあ、やる気になってきたぞ。どうしても来年、『13歳からの防衛白書』をつくらなくては。(続)