本当ならアフガニスタン問題で書かねばならないところだけれど、あまりに重すぎて、日本は何をすべきかを考えると、まとまったことが書けません。画像の本は、この問題を考える上で不可欠なので、お薦めします。本日は、私が執筆中の本がようやく「あとがき」まで来たので、それを掲載してお茶を濁します。

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 中高生を含む若い世代に向け日米安保条約を解説する本を書きたい──。かねてからそう思ってきました。「これなら推薦できる」という本が見当たらないからです。

 

 日米安保条約は、一九六〇年に締結された際、それを推進する人と反対する人の間で深刻な意見の違いが生まれ、国民の間で対立と分断が広がりました。その後、次第に安保条約を肯定する世論が定着したかに見えましたが、二〇一五年にこの条約にもとづく日米防衛協力をさらに進める新安保法制が国会に提出された際、安保条約を支持する人々にも躊躇する世論が生まれ、他の課題では見られないほどの反対運動が盛り上がって対立と分断が再現されることになります。

 

 このような経過が何十年も続いてきたので、安保条約をめぐっては、賛成か反対かにこだわった議論が目立ちます。その影響もあり、刊行される図書も、賛否をはっきりさせた旗幟鮮明なものが好まれるようです。しかし、こうした立場に縛られてしまうと、お互いが相手を全否定することになりがちで、根拠のある主張をも一緒くたに否定することにつながる可能性があります。初めて安保条約に関心を持ち、本を手にしようとする人にとって、もう少し冷静に論じるものがあったほうが良いのではないか。それが本書を執筆した動機です。

 

 かくいう私も、長い間、安保条約に反対する側に身を置いてきました。しかし数年前、防衛官僚だった柳澤協二氏と知り合い、同氏を代表とする「自衛隊を活かす会」の事務局長を任せられることになり、自衛隊の元幹部の方々とも交流するようになって、安保条約をめぐる問題をより深く考えるようになります。柳澤氏は、本書でも批判的に取り上げた一九九七年の「日米防衛協力の指針」をまとめる中心にいた方ですが、日本の防衛のために安保や自衛隊がどうあるべきかを真剣に探究しておられました。安保条約の問題で意見が異なっても、真摯に日本防衛に向き合うという点が同じなら、共通の言葉と共通の問題意識で議論できるというのが、この数年間に私が学びとったことです。

 

 安保条約をめぐる私の基本的な立場に変化があるわけではありませんが、本書では、ただ結論めいたことを書くようなことはしていません。どんな立場にも根拠があるし、根拠がなくなれば立場が変化することもあるという見地で、いろいろな見方を取り上げています。日米安保を考える上では、そういう多様な見方が必要だというのが、私がようやく到達した考え方です。本書が日米安保を真剣に考えてみたいと思っている方々に少しでも役に立つことがあれば、筆者としては望外の幸せです。