昨日、台湾をめぐって戦争が起きるとしたら、その主要な責任は武力統一方針を捨てない中国にあること、だから中国にそれを止めさせる運動が必要だと書いた。それは、どんな問題でいちばん悪いのはアメリカとそれに追随する日本だという、日本の左翼活動家が陥っているステレオタイプの思考を克服することと一体である。

 

 そのステレオタイプの思考の象徴が、戦後の軍事同盟はアメリカが画策し、アメリカが世界に広げてきたというものだ。社会主義も軍事同盟をつくったが、アメリカがやったので余儀なくされたという見方である。

 

 私などは、70年安保闘争だって中学校3年から高校1年にかけてなので、同時代の体験はない。しかし、そういうのちの世代であっても、で大学に入って左翼運動にかかわるようになると、日米安保条約こそ諸悪の根源だとする主張と一体にして、そういう考え方を教えられた。

 

 よく言われたのが、軍事同盟の根拠となっている国連憲章第51条のことである。国連憲章は侵略があったら加盟国みんなで団結して阻止するという崇高な理念に立っていたのに、そしてだから自衛権の規定は当初の憲章草案にはなかったのに、憲章作成の最終盤、戦後の世界で覇権を確立することをねらったアメリカが、ラテンアメリカ諸国と一体になってつくったのが51条をだということだった。そして、1949年、51条を根拠にしてNATOをつくる。これに対して、社会主義国もようやく6年後の55年、ワルシャワ条約機構をつくって対抗することになる。

 

 これが、いろいろな場所で教えられた定説だった。これって、当時だって虚心坦懐に向き合えば、変な説明だったのだ。だって、ソ連は、ワルシャワ条約機構をつくる前だって、というか戦争中からずっと東欧諸国に軍隊を置いて支配していたわけだから、余儀なくされたどころの話ではないのだ。

 

 しかも、アメリカ根源説を証明するために、いろんな説明がされていた。国連憲章起草会議でのアメリカとラテンアメリカ諸国のやり取りなどの会議録が持ち出され、間違いのない事実として流布されていた。

 

 「なんだ、それってウソだったんだ」「ウソでないにしても、異常な誇張だったんだ」と分かったのは、もう20年前くらいのことだろうか。東京都立大学の紀要で、森肇志先生が、国連憲章起草会議の記録を丹念に調べて書いておられた。それまで、公式の会議録での研究が多かったのだが、この51条というのは、のちに常任理事国になる米英ソ仏中の非公式のやり取りで決まったもので、その記録を研究しないと真実は分からないとして研究されたものだった。

 

 その研究成果はのちに本になっていて、タイトルは『自衛権の基層』(東京大学出版会)という。読んでもらえば分かるのだが、何と言っても定価が6800円でおいそれと手が出ない。しかも現在、在庫がなくてアマゾンで中古を入手しようとすると1万5000円。

 

 それで私が何を学んだかを、かいつまんで書いておくことにした。そんな事情だから、森先生からクレームも来ないだろうし。(続)