昨日、8月に米中対立と台湾問題で講演するためのレジメを公開したが、それに関連して1つだけ。この両国の実態をリアルに捉える大切さをどう理解してもらうかである。

 

 いろいろ考えて、中国については、2017年の中国共産党第18回大会への習近平報告の解説をすることにしたのだが、もっと考えて、これは報告そのものを読んでもらうのはいちばんだと感じた。5万字もあるもので、読む気にもならないだろうけれど、少しでも読めば、中国がめざいしているのは社会主義や共産主義と何も関係ないどころか、その対立物であることが容易に理解できるはずだ。そこでいま、これを資料として参加者に配布しやすい形に整理しているところである。

 

 アメリカについては、もっと難しい。いわゆる革新勢力の中では、アメリカに対する牢固な固定観念がある。「2つの敵」という位置づけの時代が長かったし、そういう言い方を止めてからも、なぜその言い方を止めたかという理論的な議論はほとんど行われなかった。そのため、中国や北朝鮮が暴虐ぶりを示しても、「アメリカが悪いからこうなる」みたいな見方がはびこってきた。というか、そういう理論を正当化するような理論付が、戦後の革新勢力を蝕んできた面があると思う。

 

 たとえば軍事同盟。NATOが先に出来て、ワルシャワ条約機構が数年後にできたことなどから、アメリカが軍事同盟をつくったからソ連も対抗措置でつくることを余儀なくされたという見方を私などは教えられた。しかし、よく考えてみれば、ソ連はNATO結成のあとにワルシャワ条約機構をつくって東欧に駐留を開始したのではない。第二次大戦で侵略したドイツを追い返す過程で東欧を制圧し、そのままずっと駐留し続けたのである。NATOができたので本国からやってきたアメリカとは根本的に異なる。

 

 軍事同盟をつくる法的根拠とされた国連憲章第51条も同じだ。ラテンアメリカ諸国が先陣を切って導入を求めたことなどを理由にして、戦後に軍事同盟網を世界につくるためアメリカが画策したという見方が当然のこととして革新陣営には流布していた。しかし、20世紀が終わること、国連憲章制定時の詳しい会議録が公開されるにつれて研究が進んだ。そして、アメリカはこれを主導するどころか、集団的自衛権が容易に発動されることにならないよう、必死で各国を説得した姿が明らかになっている。例えば、「武力攻撃が発生」しなければ発動できないという規定は、その産物である。ところが、そんな大事なことは、旧来の理論に反するからだろうか、革新陣営内では話題にもされていない。だから、オバマが「核兵器のない世界を」なんて言い出すと、「日本政府はアメリカ言いなり」といういつものテーゼが通用しなくなって、バタバタしてしまうわけだ。

 

 まあ、それらを克服していかないと、台湾問題にどう対処するかも見えてこない。よおく準備しないとね。